
ブロックチェーンの導入を検討する際、「どのブロックチェーンを使うか」「スマートコントラクトをどう実装するか」と、技術的な話から始めてしまうケースがあります。
しかし、ブロックチェーンは課題を解決するための手段です。技術から考え始めると、本来解決したかった課題と完成したシステムがかみ合わなくなる可能性があります。
重要になるのが、「具体と抽象」を行き来しながら課題を整理する考え方です。具体的な問題から本質を捉え、必要な機能や運用方法へ再び具体化することで、目的に合ったシステムを設計しやすくなります。
今回はブロックチェーン導入における「具体と抽象」の考え方や、課題整理からシステム化までの進め方を解説します。この記事を読めば、自社の課題からブロックチェーンの必要性を検討する方法がわかります。
具体と抽象とは?
具体とは、実際に起きている出来事や、個別の物事を指します。
例えば、以下のような内容は具体的な問題です。
- 製品の検査記録が複数のExcelに分かれている
- 契約書の最新版がどれかわからない
- 物流の途中で誰が情報を更新したのか確認できない
- AIが作成した文書の確認者が記録されていない
一方、抽象とは、複数の具体的な出来事から共通点や本質を取り出したものです。
先ほどの問題を抽象化すると、以下のように整理できます。
- 関係者間で正しいデータを共有できていない
- 記録の変更履歴を追跡できていない
- 情報の正しさを証明できない
- 作成から承認までの責任範囲が曖昧になっている
問題は会社や業務によって異なりますが、抽象度を上げると、「データ共有」「履歴管理」「真正性の証明」など、共通する課題が見えてきます。
共通課題がわかれば、ブロックチェーンが適しているのか、既存のデータベースで十分なのかを判断しやすくなります。
なぜブロックチェーン導入に具体と抽象が必要なのか?
ブロックチェーン導入に具体と抽象の考え方が必要な理由は、主に以下の3つです。
- 技術を導入すること自体が目的になるのを防ぐため
- 個別の要望に振り回されないため
- 将来の拡張を考えやすくするため
それぞれを解説します。
技術を導入すること自体が目的になるのを防ぐため
1つ目の理由は、ブロックチェーンを導入すること自体が目的になるのを防ぐためです。
「ブロックチェーンを使って新しいサービスを作りたい」という相談は少なくありません。しかし、解決したい課題が明確でなければ、通常のデータベースとの違いを活かせない可能性があります。
例えば、1社だけがデータを管理し、外部との共有もなく、管理者を十分に信頼できるシステムであれば、ブロックチェーンを使わない方が低コストで運用できる場合があります。
一方、複数の企業が同じデータを参照し、特定の一社だけに管理を任せたくない場合や、記録が後から変更されていないことを確認したい場合には、ブロックチェーンの特徴を活かしやすくなります。
「何に使うか」から考えるのではなく、「どのような状態を実現したいか」まで抽象化することが重要です。
個別の要望に振り回されないため
2つ目の理由は、個別の要望に振り回されないためです。
システム開発では、現場から多くの要望が出てきます。
「この画面に承認ボタンがほしい」「CSVを出力したい」といった要望は、すべて具体的です。しかし、そのまま実装すると、機能が増え続け、複雑で使いにくいシステムになる可能性があります。
そこで、「なぜ承認ボタンが必要なのか」「なぜCSVが必要なのか」と目的を確認します。
承認ボタンの目的が「誰が最終確認したかを残したい」であれば、必要なのはボタンそのものではなく、承認者と承認日時を記録する仕組みです。
このように一度抽象化することで、特定の画面や操作方法に縛られず、より適切な解決方法を検討できます。
将来の拡張を考えやすくするため
3つ目の理由は、将来の拡張を考えやすくするためです。
目の前の一業務だけを具体的にシステム化すると、別の部署や取引先へ展開するときに作り直しが必要になる場合があります。
例えば、製品Aの検査証明書を管理する仕組みではなく、「企業間で証明書の発行履歴と真正性を確認する仕組み」と抽象化すれば、別製品や資格証明、保守記録にも応用できる可能性があります。
抽象化とは、内容を曖昧にすることではありません。複数の具体例に共通する構造を見つけ、再利用可能な形に整理することです。
ブロックチェーン導入を検討する3つのステップ
ブロックチェーン導入では、「具体から抽象へ進み、再び具体へ戻る」という流れが有効です。
ステップ1:具体的な問題を集める
まずは、現場で実際に起きている問題を集めます。
この段階では、無理に整理する必要はありません。
- 誰が、どの業務で困っているのか
- 現在はどのように対応しているのか
- どの程度の頻度や損失が発生しているのか
これらを確認し、事実と要望を分けて整理します。
例えば、「ブロックチェーンで検査記録を管理したい」は要望です。その背景にある「取引先から記録の信頼性を証明してほしいと言われている」が本来の問題かもしれません。
ステップ2:問題を抽象化する
次に、複数の問題に共通する本質を探します。
例えば、以下のように整理します。
「検査記録が書き換えられるかもしれない」
「証明書が本物か確認できない」
「契約書が記録された時点を確認できない」
これらは個別の問題ですが、抽象化すると「データの真正性や記録された時点を確認したい」という共通課題になります。
ここまで整理できた段階で、ブロックチェーンの特徴と照らし合わせます。複数の組織が関与するのか、共通の管理者を置けるのか、履歴の変更検知や参加者間での記録共有が必要なのかを確認します。
これらの条件が少なければ、既存のデータベースや電子署名、アクセスログなど、別の技術が適している可能性があります。
ステップ3:システムとして具体化する
最後に、抽象化した課題をシステムの要件へ落とし込みます。
例えば、「データの真正性を証明する」という課題であれば、以下のように具体化します。
- 元データはどこに保存するのか
- ブロックチェーンには何を記録するのか
- 誰が記録を登録できるのか
- 誰が記録を閲覧できるのか
- 誤った情報を登録した場合にどう訂正するのか
- 既存システムとどのように連携するのか
すべての文書や個人情報をブロックチェーンへ直接保存する必要はありません。元データは既存のストレージで管理し、ハッシュ値、タイムスタンプ、登録者、承認履歴など、証明に必要な情報だけを記録する方法もあります。
抽象化したままではシステムを作れません。最終的には、画面、データ、権限、処理、運用ルールまで具体化する必要があります。
具体と抽象を行き来するときの注意点
具体と抽象は、どちらか一方だけを重視すればよいわけではありません。
具体だけで考えると、目の前の要望を継ぎ足した複雑なシステムになりやすくなります。一方、抽象だけで考えると、「信頼できる情報基盤を作る」といった曖昧な方針だけが残り、実際の業務で使えない可能性があります。
重要なのは、具体と抽象を往復することです。
具体的な問題から共通課題を見つけ、必要な機能へ具体化し、そのシステムが最初の問題を本当に解決できるのかを再確認します。
また、ブロックチェーンを使うことが最適とは限りません。
社内だけで利用し、データの更新や削除が頻繁に必要な場合には、一般的なデータベースの方が適していることもあります。
ブロックチェーンの導入可否を適切に判断することも、「具体と抽象」を使った課題整理の成果です。
まとめ ブロックチェーン導入と具体・抽象について
今回は、ブロックチェーン導入における「具体と抽象」の考え方について解説しました。
ブロックチェーン導入で重要なのは、目の前の要望をそのまま実装することではありません。
現場の具体的な問題を集め、共通課題を抽象化し、解決の仕組みとして再び具体化することが重要です。
この流れによって、以下の点を整理しやすくなります。
- 本当に解決すべき課題は何か
- ブロックチェーンを使う必要があるのか
- どのデータを記録すべきか
- 誰がどのように利用するのか
- 将来ほかの業務へ展開できるのか
ブロックチェーンは、複数の関係者によるデータ共有や、記録の改ざん検知、真正性の確認に役立ちます。しかし、技術の特徴と業務課題が一致して初めて価値を発揮します。
「具体から抽象へ、抽象から具体へ」と視点を往復しながら検討することで、技術ありきではない、業務に本当に必要なブロックチェーンシステムを設計できるでしょう。
今後も本メディアでは、ブロックチェーンやシステム開発、データ活用に関する情報を定期的にお伝えしていきます。

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