
近年、デジタルアイデンティティは国内外を問わず大きな注目を集めています。
デジタルアイデンティティ:デジタル世界において、個人の属性情報を識別し、本人であることを証明する仕組みのこと。
現在、多くのITサービスを利用する際に、ユーザーはメールアドレスや年齢などの情報を登録する必要があります。そしてこれらの情報は、サービス提供企業により保管されることが一般的です。
しかし、登録された情報は本人確認の目的だけでなく、データ分析や広告配信といった別の目的で活用されることがあります。さらに、企業の情報管理体制によっては、情報漏洩といったリスクも発生しかねません。
株式会社リッカ
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DID/VCとは?

DID/VCは、DID(分散型ID)とVC(検証可能な証明書)を組み合わせた技術であり、インターネット上で「誰が誰であるか」を自分自身で証明できる新しい仕組みです。
DIDは個人や組織を一意に識別するための識別子として機能し、VCはそのDIDが証明する情報を含むデジタル証明書の役割を果たします。
DID(分散型ID)とは?

DID(分散型ID)は「Decentralized Identifiers」の略で、ブロックチェーンなどの分散型台帳技術を基盤にした新しい識別子です。
従来のID(たとえばSNSアカウントやログインID)は、企業などの中央管理者に依存しており、ユーザーは情報の扱いや安全性を管理者に委ねていました。
一方、DIDでは、ユーザー自身がIDの発行・管理を行うため、プライバシーに配慮した安全な情報管理が可能となります。中央集権的な管理者を介さずに、個人や組織が自らのアイデンティティを主体的に管理し、さらに検証可能な形で証明できる仕組みを実現します。
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VC(検証可能なデジタル証明書)とは?

VC(検証可能な証明書)は「Verifiable Credentials」の略で、デジタル環境における信頼性の高い証明書を指します。
例えば、資格証明書、職歴、学歴、身分証明など、個人が持つさまざまな情報をデジタル化し、検証可能な形で提供する仕組みです。
VCは、企業や学校などの発行者が電子署名を行って発行し、利用者はそれをスマートフォンなどの端末に自分で保管します。必要に応じて、検証者(採用担当者、窓口担当者など)に提示し、本物であることをその場で証明することができます。
この仕組みにより、紙の証明書のように郵送したり、コピーを渡したりする必要がなくなり、迅速かつ安全に本人確認ができるようになります。
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DID/VCとブロックチェーンの関係性

DID/VCを実現するにあたって、ブロックチェーンは必須の要件というわけではありません。
その理由は、DID/VCが求める主な条件が「高いセキュリティ性」と「中央集権的な管理者に依存しないこと」であり、これらの要件を満たすことができるのであれば、必ずしもブロックチェーンである必要はないからです。
しかし、ブロックチェーンは以下の特徴を持っているため、DID/VCととても親和性の高い技術となっています。
- 改ざん耐性が高い:一度記録された情報を後から変更することが極めて困難
- 分散性:単一の管理者に依存せず、ネットワーク全体で情報を管理
- 透明性と信頼性:誰がいつ何を登録したかが明確で、監査可能
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DID/VCが求められる背景や現状の課題

DID/VCが求められている背景には、デジタル社会の進展に伴い、「信頼性」「プライバシー」「自己情報の管理(自己主権)」といったニーズが高まっていることがあります。
このようなニーズを満たすために注目されているのが「デジタルアイデンティティ」の考え方です。
ユーザーの自己主権を回復する
冒頭でも触れたように、従来のID(たとえばSNSアカウントやログインID)は、企業などの中央管理者に依存しており、ユーザーは自身の情報の扱いや安全性を管理者側に委ねている状態でした。
しかし、こうした仕組みには課題もあります。たとえば、サービスの終了やアカウント停止による突然のアクセス不能、あるいはユーザーの個人情報が商業目的で利用されるといったリスクが発生しています。
透明性や耐改ざん性を担保する
VC(検証可能な証明書)を利用することで、証明書の発行元や内容の改ざん有無、保有者が本人であるかどうかといった情報を、検証可能な形式でやり取りすることが可能になります。
さらに、情報の透明性が担保されることで、利用者・発行者・検証者の間に信頼性の高い関係性が築かれる点も、DID/VCの大きなメリットです。
ネットワーク社会の信頼性を向上する
近年、生成AIの進化により、画像や動画などのコンテンツを誰でも簡単に作成できるようになりました。その一方で、公式情報を装った偽コンテンツやフェイクニュースの拡散といった問題も深刻化しています。
結果として、DID/VCの仕組みは、デジタル社会全体における「信頼のインフラ」として機能し、ネットワーク社会における情報の信頼性を向上させる効果が期待されます。
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DID/VCのメリット

DID/VCの活用によって、ユーザー・企業の双方にとってさまざまな利点があります。ここでは、個人情報保護、利便性、セキュリティといった観点から、その主なメリットをご紹介します。
個人情報を保護し、主体的に活用できる
DID/VCを活用することで、従来のようにサービス提供者がユーザーの個人情報を一元的に管理するのではなく、個人が自身の情報を管理できるようになります。
そのため、ユーザーは「どの情報を、誰に、いつ、どの範囲で開示するか」を自分で選択することが可能です。また、情報の提供を制限することによって、不必要なデータの収集や商用利用を防ぎ、プライバシーをより強固に守ることができます。
個人を証明するためのコストや手間が削減できる
たとえば、在学証明書を発行する場合、これまでは学校の窓口で申請し、紙の証明書を受け取り、それを持参または郵送して提出するといった煩雑な手続きが必要でした。
しかし、VC(検証可能な証明書)を活用すれば、学校が発行したデジタルな在学証明書をスマートフォンなどで即座に提示・共有することができます。受け取った側もブロックチェーン技術などを用いて改ざんの有無や発行元の真正性を自動で検証できるため、確認作業の効率化にもつながります。
これにより、証明にかかる時間的・金銭的コストを削減できるだけでなく、発行者・提示者・検証者すべてにとって利便性が向上します。
詐欺やなりすましを防ぐことができる
生成AIによって作成された画像や動画は、一見して本物と見分けがつかないほど精巧になってきています。
そのため、素人目線では偽物と気づかずに信用してしまうケースも少なくありません。
しかし、VC(検証可能な証明書)を活用すれば、コンテンツの発行者や所有者が誰かを明確にし、改ざんの有無も確認できるようになります。
たとえば、「この画像はA社が発行したもの」「この動画は本人が所有している証拠がある」といった信頼の裏付けを持った証明ができるため、第三者によるなりすましや偽情報の拡散を防ぐ有効な手段となります。
DID/VCは、信頼できる情報を正しく証明し、不正を防ぐための重要な仕組みとして、今後ますます必要性が高まると考えられています。
DID/VCの注意点

DID/VCでは、個人が自身の情報を管理することによって、情報の管理権を自分自身が持てるという大きなメリットがあります。しかしその一方で、自己責任の範囲も広がるという注意点があります。
ユーザーの自己責任の範囲が広がる
DID/VCの最大の特徴のひとつは、ユーザー自身が情報の管理権を持つことです。これにより、個人が自分の情報を主体的に活用できるようになりますが、その分、情報管理の責任も個人に委ねられるという側面があります。
この記事を読んでくださっている方の多くは、セキュリティに関する基本的なリテラシーをお持ちだと思います。しかし、すべてのユーザーが同じ水準の知識や意識を持っているわけではありません。
DID/VCを広く社会に普及させるには、技術の利便性だけでなく、正しい利用方法やリスクに関する教育・啓発活動も不可欠です。
正しいデータを登録する
DID/VCの大きな特徴のひとつに、改ざん耐性が高いという点があります。一度登録されたデータは書き換えられないため、なりすましや情報の改ざんを防止できるという強みがあります。
しかしこの特徴は、誤った情報を登録してしまった場合の修正が難しいという側面も併せ持っています。
このようなトラブルを防ぐためにも、DIDやVCに登録する情報は、事前に十分に確認し、正確に入力することが重要です。
また、発行元も利用者も、正確性を担保するためのプロセスや確認体制を整備することが求められます。
やみくもに第三者を信頼しない
従来の仕組みでは、個人情報はサービス提供者が管理しており、ユーザー自身が情報を直接他人に渡す機会はあまりありませんでした。
そのため、提供者に悪意がない限り、個人情報が不用意に他人へ渡り、悪用されるケースは限定的でした。
しかし、DID/VCのように個人が自分で情報を管理するようになると、情報の提供判断もすべてユーザーに委ねられます。
不用意に情報を開示してしまうと、フィッシングや詐欺、なりすましなどの被害につながる可能性があります。
そのため、VCの提示には「本当に必要な場面か」「信頼できる相手か」を確認する習慣を持つことが重要です。
DID/VCの活用事例

DID/VCは、近年さまざまな分野で実証実験や導入が進められており、実際の活用事例も徐々に増えつつあります。
これらの事例は、単なる技術の検証にとどまらず、社会的課題の解決や業務効率の向上など、実用面でも高く評価されています。
ここでは、DID/VCがどのように活用されているか、代表的な例をいくつか紹介します。
DID/VC共創コンソーシアム(DVCC)

DID/VC共創コンソーシアム(DVCC)は、2023年10月に発足した日本国内の業界横断型コンソーシアムです。
このコンソーシアムは、DID(分散型ID)とVC(検証可能な証明書)を活用した新たなビジネス創出や、異なるサービス間での相互運用を可能にするためのルール整備を目的としています。
参加企業・団体は多岐にわたり、金融、行政、医療、ITなどさまざまな業界が参画しています。これにより、業界の枠を超えた共通仕様の検討やユースケースの実証が可能となり、日本国内でのDID/VCの実装と普及が加速しています。
※DID/VC共創コンソーシアム 相互運用に向けた検討書:kentousho.pdf
『proovy 銀行VCサービス』リリースのお知らせ

株式会社Recept(代表取締役社長:中瀬 将健、本社:東京都豊島区)は、DID/VC技術を活用した「proovy」を基盤とする新サービス、『proovy 銀行VCサービス』をリリースいたしました。
本サービスでは、ユーザーが金融機関に登録した個人情報を、デジタル証明書(VC:検証可能な証明書)として自身のスマートフォンに記録することができます。
記録されたVCは、「proovy」を介して、外部の事業者やサービス提供者に対して安全かつスムーズに提示可能です。
これにより、本人確認や属性証明などの手続きをオンライン上で完結できるようになり、利便性とセキュリティの両立を実現します。
今後もReceptは、DID/VC技術を活用したサービスの拡充を通じて、より安心・便利なデジタル社会の実現を目指していく予定です。
外部サイト:『proovy 銀行VCサービス』リリースのお知らせ | 株式会社Receptのプレスリリース
モバイル運転免許証、UWB/BLEを活用する「クルマウォレット連携」実証を実施

トヨタ・コニック・アルファ株式会社は、デジタル領域で協業する株式会社ジェーシービーの協力のもと、モバイル運転免許証(mDL)および超広帯域通信(UWB)、低消費電力Bluetooth(BLE)といった最新技術を活用した「クルマウォレット連携」の実証実験を実施しました。
本実証では、ドライバーとクルマのデータをセキュアに連携させることにより、より高度で安全なモビリティデータの利活用を目指しています。mDLにより本人確認の信頼性を高めつつ、UWBやBLEを用いた近接通信技術によって、車両とのスムーズな情報交換やサービス連携の実現性を検証しました。
外部サイト:トヨタ・コニック・アルファ、JCB協力のもとモバイル運転免許証、UWB/BLEを活用する「クルマウォレット連携」実証を九州大学 伊都キャンパスで実施 | トヨタ・コニック・プロ株式会社のプレスリリース
DID/VC技術を活用した次世代型個人情報管理サービス「TrustX」の提供に向け資本業務提携契約を締結

2025年4月、株式会社大和総研(代表取締役社長:望月 篤、本社:東京都江東区)と、株式会社Recept(代表取締役社長:中瀬 将健、本社:東京都豊島区)は、次世代型個人情報管理サービス「TrustX」の提供に向けて、資本業務提携契約を締結しました。
「TrustX」は、ユーザーの本人確認書類情報をデジタル化し、スマートフォン上に安全に保管、必要に応じて選択した情報のみを開示できる仕組みを構築するサービスです。
DID(分散型ID)およびVC(検証可能な証明書)といった先進技術を活用し、本人確認や属性証明の効率化・セキュリティ向上を図ることが期待されています。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000070.000139472.html
まとめ DID/VCについて

今回は、DID/VC技術について、活用事例も交えてご紹介しました。
Web3社会が今後さらに広がっていく中で、個人情報の持ち方や活用の仕方も大きく変化していくことが予想されます。
その変化をただ受け入れるのではなく、自分自身で情報を守り、活かしていく姿勢がより重要になっていくでしょう。DID/VCは、個人が**「誰かに管理される」から「自分で管理する」**時代への転換を支える技術です。
ぜひ今のうちから関心を持ち、未来のデジタル社会に備えていきましょう。
株式会社リッカ
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