
近年、人工知能(AI)技術の発展により言語モデルの活用が急速に広がっています。特に注目されるのが、LLM(大規模言語モデル)とSLM(小規模言語モデル)です。
LLMは汎用性が高く、幅広い分野で活躍する一方で、リソースを大量に消費し、バイアスのリスクも指摘されています。一方、SLMは特定の分野に特化し、軽量で高速な処理が可能ですが、汎用性が低いという課題もあります。
本記事では、LLMとSLMの違いやそれぞれのメリット・デメリットを解説し、具体的な活用事例を紹介します。
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LLM(大規模言語モデル)とSLM(小規模言語モデル)の違いとは?

LLM(大規模言語モデル)とは?
LLM(Large Language Model)は、数百億から数兆のパラメータを持ち、インターネット上の膨大なデータを学習することで、高度な自然言語理解と生成を実現するAIモデルです。
代表的なLLMには、OpenAIのGPTシリーズ、GoogleのGemini、MetaのLlamaなどがあります。これらのモデルは、チャットボット、翻訳、コンテンツ生成、プログラミング支援など多岐にわたる分野で活用されています。
LLMは広範な知識を持ち、一般的な質問に対応できる強みがあります。その一方で、計算資源を大量に消費し、コストが高いという課題も存在します。
SLM(小規模言語モデル)とは?
SLM(Small Language Model)は、数億から数十億のパラメータで構成される比較的小規模な言語モデルで、特定の分野や用途に最適化されているのが特徴です。
代表的なSLMには、GoogleのGemma、MicrosoftのPhi-3、NTTのtsuzumiなどが挙げられます。SLMは軽量なため、ローカルPCやモバイルデバイス上でも実行可能で、エッジデバイスでの活用が進んでいます。
また、専門分野に特化した学習が可能であり、医療、金融、法律などの領域で精度の高い回答を提供できます。しかし、汎用的な質問には対応しにくく特定の分野の知識に依存するため、適用範囲が限られるという課題もあります。
LLMのメリット

高度な自然言語理解と生成が可能
LLMは、大量のデータを学習することで自然な文章を生成し、高度な言語理解を実現できます。
例えば、質問応答システムでは質問の意図を的確に捉え、適切な回答を提供できます。また、要約、翻訳、文章校正などの言語処理タスクにおいても優れたパフォーマンスを発揮します。さらに、プログラムコードの自動生成や修正も可能で、ソフトウェア開発の効率化に貢献します。
このように、多様なタスクに対応できることが、LLMの大きな強みです。
汎用性と適応力の高さ
LLMは幅広い領域のデータを学習するため、汎用性が高く、多くのタスクに適応できます。
一般的な知識に基づいた会話はもちろん、特定の業界に関連する内容にも一定の理解を示します。さらに、ファインチューニングによって、特定の用途に最適化することも可能です。
そのため、カスタマーサポート、教育、医療、研究分野など、多様なビジネス用途に応用されており、企業の業務効率化にも寄与しています。
高いコストパフォーマンスが期待できる
一見するとLLMは膨大なリソースを消費しコストが高い技術と思われがちですが、大規模な運用を前提とすれば、高いコストパフォーマンスを発揮する可能性があります。
例えば、従来は人間が対応していたカスタマーサポート業務をLLMが代替することで、大幅なコスト削減が可能になります。また、多くの分野で共通して利用できるため、企業にとっては一度の導入で幅広い業務の自動化を実現できるという利点があります。
ただし、大規模なシステムを構築・運用する場合、その計算リソースには膨大なコストがかかるため、コストに見合うパフォーマンスが得られるかどうかは慎重に検討する必要があります。
LLMのデメリット

膨大なリソースを消費する
AIのトレーニングや推論には大量の計算資源が必要です。
例えば、ChatGPTのようなモデルは、トレーニングに数千台のGPUが必要であり、運用にも高性能なサーバーが求められます。そのため、電力消費量が多く、環境負荷も大きいとされています。また、クラウドベースでの運用が一般的で、オンプレミスでの導入は難しいケースが多いです。
このように、導入・運用コストが高い点がLLMの大きな課題の一つです。
バイアスやハルシネーションのリスクが高い
LLMはインターネット上の大量のデータを学習するため、学習データに含まれるバイアスや誤情報をそのまま反映する可能性があります。
これにより、特定の価値観に偏った回答を生成したり、事実に基づかないハルシネーション(幻覚)を起こしたりするリスクがあります。この問題を解決するには、継続的なモデルの監視とファインチューニングが必要です。
処理内容によってレスポンスが悪化する可能性がある
LLMは複雑なタスクに対応できる反面、処理時間が長くなることがあります。
特に、長文の要約や複雑な質問に対しては、生成に時間がかかることがあり、リアルタイム性を求められる場面では不利になることがあります。
そのため、高速な応答が求められる場面では、LLMではなくSLMのような軽量なモデルを活用するほうが適しているケースもあります。
SLMのメリット

軽量で高速な処理が可能
SLM(小規模言語モデル)は、LLM(大規模言語モデル)に比べてパラメータ数が少なく、計算リソースの消費が抑えられる点が大きなメリットです。
LLMは大規模なデータセットを活用し、多くのGPUを使用して推論を行いますが、SLMはコンパクトな構成により、エッジデバイスやモバイル環境でも実行可能です。このため、サーバーへの負荷を軽減しながら、リアルタイムでの応答が求められるアプリケーションに適しています。特に、低遅延が求められる自動応答システム、音声アシスタント、IoTデバイスの制御などに活用されます。
低電力環境での利用が可能なため、エネルギー効率の面でも優れています。
専門的な情報に特化できる
SLMは、特定の業界や専門分野に特化した学習が可能です。
例えば、医療分野向けのSLMは、医学論文や診療記録をもとに学習することで、一般的なLLMよりも正確な診断補助や医療用語の理解が可能になります。また法律分野のSLMは、判例や法律文書を学習しより適切な法的アドバイスを提供できるようになります。金融分野では、SLMを用いることで、決算書の解析や市場分析を迅速に行うことができます。
このように、SLMは、汎用的な知識を広範囲に扱うLLMとは異なり、特定の用途で高いパフォーマンスを発揮するため、業務の効率化や精度向上に貢献します。
バイアスやハルシネーションのリスクを低下できる
LLMはインターネット上の幅広いデータを学習するため、意図しないバイアスやハルシネーション(事実とは異なる内容の生成)のリスクを抱えています。一方、SLMは限られた領域のデータを学習するため、これらのリスクを低減できます。
例えば、法律や医療などの分野では、誤った情報が大きな影響を及ぼす可能性がありますが、SLMを用いることで、信頼できるデータソースに基づいた回答が可能になります。また、特定の業界の規制やポリシーに準拠したモデルを開発できるため、企業や公共機関にとってより安全なAIソリューションを構築できます。
情報の正確性と信頼性が求められる場面で、SLMは有用な選択肢となるでしょう。
SLMのデメリット

汎用性が低い
SLMは特定の分野に特化したモデルであるため、汎用的な質問や幅広いタスクには対応できません。
例えば、一般的な雑談や多様な業界の情報を横断的に扱うことが求められる場面では、LLMの方が適しています。SLMは特定の知識領域において高い精度を誇る一方で、異なる分野の知識が必要になると適切な回答を生成できない場合があります。そのため、複数のSLMを組み合わせたり、LLMと連携させたりすることで、より包括的なAIシステムを構築する必要があります。
このような制約を理解した上で、用途に応じた適切なモデル選択が求められます。
トレーニングやファクトチェックにより専門性が求められる
SLMは特定分野に特化するため、学習データの選定やファインチューニングが重要になります。
一般的なLLMは広範なデータを学習するため、ある程度自律的に情報を生成できます。しかし、SLMは対象分野の正確なデータを収集し、適切に学習させる必要があります。例えば、医療分野のSLMを開発する場合、医師や専門家による監修が不可欠となり、その過程でコストや時間がかかります。
また、データの更新が必要な場合も専門的な知識が求められるため、継続的な管理とメンテナンスが必要になります。
拡張性に課題が出る可能性がある
SLMは特定の用途に最適化されているため、新しいタスクに対応するには追加のトレーニングが必要になる場合があります。
例えば、特定の医療診断に特化したSLMが、新しい病気の診断にも対応するには、新たなデータを学習させる必要があります。しかし、LLMのように汎用的な知識を持つモデルとは異なり、SLMは既存のトレーニングデータ以外の知識を柔軟に適用することが難しく、拡張性に制約が生じる可能性があります。
そのため、SLMの導入を検討する際には、将来的な拡張性やアップデートの容易さについても考慮する必要があります。
LLMの活用例

LLMは、その汎用性の高さからさまざまな分野で活用されています。
例えば、カスタマーサポートでは、LLMを搭載したチャットボットが顧客対応を行い、問い合わせの処理を自動化することで業務負担を軽減します。また、教育分野では、LLMを活用した対話型学習システムを活用し、学生の質問に答え、学習を支援しています。プログラミング支援では、GitHub CopilotのようなLLMがコードの補完やバグの修正を行い、開発者の生産性を向上させています。
さらに、LLMはコンテンツ生成にも活用されており、ニュース記事の自動作成やクリエイティブライティングの支援にも活用されています。
SLMの活用例

SLMは特定の分野に特化しているため、専門的な業務において有効活用されています。
医療分野では、SLMを活用した診断支援システムにより患者の症状に基づいて適切な診断を提案し、医師の判断をサポートしています。金融業界では、SLMを用いたリスク評価モデルが企業の信用スコアを分析し、融資の可否を判断する際に役立っています。また法律分野では、SLMを活用した契約書のレビューシステムが、重要な条項のチェックやリスク分析を行い、弁護士の業務を支援しています。
SLMの活用により、業務の効率化と精度向上が期待されています。
まとめ LLMとSLMの違いについて

今回は、LLM(大規模言語モデル)とSLM(小規模言語モデル)の違いやそれぞれのメリット・デメリットについて解説しました。
LLMとSLMはそれぞれ異なる特性を持ち、適切な用途に応じた選択が求められます。LLMは汎用性が高く、多様なタスクに対応できますがリソース消費が多く、バイアスのリスクもあります。一方、SLMは特定の分野に特化し軽量かつ高速な処理が可能ですが、汎用性には欠けます。
今後の技術進化により、LLMとSLMのハイブリッド運用が進み、それぞれの長所を活かしたAI活用がさらに広がることが期待されます。
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