
ブロックチェーンは、複数の企業や組織が同じ情報を共有し、記録の改ざんを検知しやすくする技術として、物流、金融、保険などで活用が検討されてきました。
しかし、実証実験で技術的な有効性を確認できても、商用サービスとして継続できるとは限りません。参加企業を十分に集められない、収益化できない、大規模システムの開発が難航するといった理由により、中止や撤退に至ったプロジェクトもあります。
本記事では、ブロックチェーンを活用したものの、当初の想定通りには進まなかった3つの事例を紹介します。
なお、「失敗」と一口に言っても、その状態はさまざまです。技術的に実現できなかったケースだけでなく、システムは構築できたものの事業として成立しなかったケースや、資金を確保できず継続できなかったケースもあります。
TradeLens|業界全体の協力と採算性を確保できず終了

TradeLensは、海運大手のMaerskとIBMが共同開発した、国際貿易・物流向けのブロックチェーンプラットフォームです。
コンテナ輸送では、荷主、船会社、港湾、税関、物流会社など、多くの関係者が書類や輸送情報をやり取りします。TradeLensは、これらの情報を共通基盤上で共有し、国際貿易を効率化することを目指して2018年に発表されました。
しかし、MaerskとIBMは2022年11月、TradeLensの提供終了を発表しました。
Maerskは、利用可能なプラットフォームの開発には成功した一方、必要とされる世界規模の業界協力を実現できず、独立した事業として継続するための商業的採算性に達しなかったと説明しています。プラットフォームは2023年第1四半期末までに停止する予定とされました。
TradeLensの事例から分かるのは、システムを完成させることと、業界全体へ普及させることは別の課題だという点です。複数企業が参加するプラットフォームでは、利用者が増えるほど共有できる情報も増え、サービスの価値が高まります。反対に、参加企業が十分に集まらなければ、一部の区間や業務だけで情報が途切れ、導入効果も限定されます。
we.trade|商用化後も継続資金を確保できず
we.tradeは、欧州の銀行とIBMなどが参加した、貿易金融向けのブロックチェーンプラットフォームです。
国際取引に関する契約条件や決済情報を共有し、スマートコントラクトを使って支払い処理を効率化することを目指していました。IBMによると、we.tradeはHyperledger Fabricを基盤として開発され、2019年1月に本番稼働へ移行しています。
一方、金融技術分野の専門メディアであるFinextraは2022年6月、we.tradeが支払不能手続きに入り、事業を縮小して清算人の選任を提案したと報じました。同記事では、運営コストが発生する中で、追加投資の見通しが立たなかったとされています。
we.tradeは、構想や実証だけで終わったプロジェクトではありません。本番環境まで進んだにもかかわらず、事業を継続できなかった点が重要です。
業務を効率化できるサービスであっても、開発費や運営費を上回る収益を得られるとは限りません。利用企業が増えるまでの費用を誰が負担するのか、どのような料金体系で収益を得るのかを、技術開発と並行して設計する必要があります。
B3i|保険業界の共同プロジェクトが資金不足で支払不能に

B3iは、保険・再保険業界における取引を効率化するため、2016年に設立されたブロックチェーン共同プロジェクトです。保険会社や再保険会社の間では、契約条件、リスク情報、保険金などに関する確認や照合作業が発生します。B3iは、これらの取引を共通基盤やスマートコントラクトで効率化することを目指していました。
保険業界の国際的な研究機関であるThe Geneva Associationの報告書によると、B3iは2022年、新たな資金を調達できなかったことで支払不能となりました。同報告書は、短期間で期待された効率性や収益性を実現し、大規模な普及へつなげることの難しさを示す事例としてB3iを取り上げています。
B3iは2020年時点で21社の保険・再保険会社から支援を受けていましたが、事業継続に必要な追加資金を確保できませんでした。多数の大手企業が参加していることは、事業の信用力や検証環境の構築には役立ちます。しかし、参加企業が多いことと、継続的な収益が得られることは同じではありません。
3つの事例に共通する課題
今回紹介した事例からは、ブロックチェーン事業の成否を左右する3つの課題が見えてきます。
参加者を集める必要がある
企業向けブロックチェーンでは、複数の企業が同じ基盤を利用することで価値が生まれます。
しかし、参加企業にはシステム改修、データ形式の統一、社員教育などの負担が発生します。参加によって得られる利益が明確でなければ、業界全体へ利用を広げることは困難です。
既存業務の複雑さはなくならない
ブロックチェーンへ移行しても、業務ルール、権限管理、法規制、障害対応、監査といった要件は残ります。
ブロックチェーンは複雑な業務を自動的に整理する技術ではありません。導入前に業務プロセスを見直し、何を共通化し、何を各社のシステムに残すかを決める必要があります。
管理主体と意思決定が必要になる
ブロックチェーンを利用しても、運営方針、費用負担、参加条件、システム変更などを決める主体は必要です。
特に企業向けの許可型ブロックチェーンでは、参加企業間の利害を調整するガバナンスが、技術と同じくらい重要になります。
ブロックチェーン導入前に確認すべきこと
ブロックチェーンの導入を検討する際は、まず通常のデータベースでは解決できない理由を明確にする必要があります。複数の独立した組織で情報を共有する必要があるのか、特定の一社だけに管理を任せにくい事情があるのか、記録を後から検証する必要があるのかを整理します。
その上で、参加企業が得られる利益、既存システムとの接続方法、開発・運営費の負担、実証から商用化へ進むための条件を定めることが重要です。
また、期待した利用者数や取引量に達しなかった場合に備え、プロジェクトの中止基準や、既存システムへ戻す方法もあらかじめ決めておく必要があります。
まとめ
今回紹介した事例は、ブロックチェーンが役に立たないことを示すものではありません。
TradeLensでは利用可能なプラットフォームが開発され、we.tradeは本番稼働に進んでいました。それでも、参加企業、収益性、資金調達、システム開発などの課題によって、事業を継続できない場合があります。
ブロックチェーンの導入で重要なのは、技術が動くかどうかだけではありません。 どの業務課題を解決するのか、参加企業にどのような利益があるのか、誰が費用と責任を負うのかまで設計して、初めて継続可能な仕組みになります。

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