
ブロックチェーンというと、暗号資産やNFTを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかし、2026年に発表された取り組みを見ると、その活用範囲は企業間の受発注や決済、法人確認、証券取引、国際送金など、既存の業務や金融インフラへ広がっています。
一方で、「実証実験に成功したこと」と「一般向けのサービスとして本番運用されていること」は同じではありません。ブロックチェーンの社会実装を正しく捉えるためには、各事例が実証、本番取引、正式サービスのどの段階にあるのかを確認する必要があります。
今回は、2026年7月24日時点で企業や国際機関の公式発表を確認できる4つの事例を取り上げ、ブロックチェーンや関連するトークン化技術が、どのような業務課題に活用されているのかを解説します。
ブロックチェーン活用事例を見る際の注意点
ブロックチェーンに関する取り組みは、主に次の3段階に分けて考えられます。
- 構想・開発
- 実証実験
- 本番利用
実証実験では、限定された参加者や過去の取引データなどを使い、技術面や業務面で仕組みが成立するかを検証します。実証によって一定の効果が確認されても、法規制、導入コスト、既存システムとの接続、参加企業の確保といった課題が残る場合があります。
そのため、実証の成功が、そのまま商用化や一般利用の開始を意味するわけではありません。
以下では、各取り組みの段階も明示しながら紹介します。
日立製作所|受発注から決済・会計までを連携
日立製作所は2026年5月29日、トークン化預金「DCJPY」を活用し、企業間取引における受発注、決済、会計までの一連の業務プロセスを自動化する実証実験に成功したと発表しました。
この実証では、流通BMSを利用した商品の受発注処理と、DCJPYによる決済処理を、ブロックチェーンを活用した共通基盤「インボイスチェーン」上で連携しています。
日立はインボイスチェーンの主要機能を開発し、デジタル通貨フォーラムのインボイスチェーン分科会参加企業を中心とする9社が共同で実証を行いました。
企業間取引では、注文情報、請求情報、入金情報が異なるシステムで管理され、担当者による照合や入力作業が必要になることがあります。商流と金流を同じ基盤上で連携させることで、取引処理の迅速化や自動化、注文内容と決済情報の不整合防止が期待されます。
TOPPANとSBI XDC|法人確認と債権情報をオンラインで検証
TOPPANとSBI XDC Network APACは、2026年6月23日から7月6日にかけて、法人デジタル証明書を活用したファクタリング取引のオンライン化実証を行いました。
国際取引では、取引先企業の実在性や契約を行う担当者の権限を確認するために、多数の書類や審査が必要になることがあります。今回の実証では、TOPPANが提供する法人デジタル証明書「vLEI」と、SBI XDCが提供するブロックチェーン技術を用いた貿易DXアプリケーションを接続しました。
中古自動車や中古車部品の輸出事業における過去の取引データを使い、法人確認の自動化と、記録された債権情報の真正性を検証しています。両社は、ファクタリングの申込から審査手続きまでをオンライン化できることを確認したと発表しています。
DTCC|トークン化した証券を本番環境で取引
米国の金融市場インフラを担うDTCCは2026年7月15日、傘下のDTCで保管されている証券をトークンへ変換し、本番環境で取引処理を行ったと発表しました。
この取り組みには、従来型の金融機関やデジタル資産関連企業など、30社を超える企業が参加しています。実施された取引には、担保の差し入れ、証券貸借、米国債や株式のDVP取引、株式トークンの移転などが含まれています。
今回の取り組みでは、ブロックチェーン基盤として、DTCCのプライベートネットワークであるBesuと、パブリックネットワークのCantonが使用されました。
この事例の特徴は、単なる検証用環境ではなく、本番環境で実際に取引が処理された点です。
Project Agorá|国境を越える銀行間決済を検証
国際決済銀行と国際金融協会が進める「Project Agorá」は、トークン化された中央銀行準備金と商業銀行預金を組み合わせ、国境を越える銀行間決済を検証する官民共同プロジェクトです。
2026年5月27日に公表された成果では、複数の通貨や法域にまたがる取引を、すべて成立させるか、すべて不成立にする「アトミック決済」が技術的に実現可能であることが示されました。
プロジェクトには、日本銀行を含む7つの中央銀行と、40を超える民間金融機関が参加しました。国際的な銀行間決済では、複数の銀行や決済システムを経由するため、処理や照合、規制対応が複雑になる場合があります。
トークン化された預金と中央銀行マネーを、プログラム可能な共通基盤で取り扱うことで、複数の処理を連動させ、安全かつ効率的に決済する方法が検討されています。
4つの事例から見える2026年の傾向
今回紹介した事例には、3つの共通点があります。
1つ目は、ブロックチェーンを単独で導入するのではなく、受発注システム、デジタル証明書、証券保管制度、中央銀行決済など、既存の仕組みと組み合わせていることです。
導入の目的も、ブロックチェーンを使用すること自体ではありません。照合作業の削減、決済の自動化、情報の真正性確認、複数処理の同時実行といった、具体的な業務課題の解決に置かれています。
2つ目は、いずれも複数の企業や金融機関が参加していることです。
企業間取引や国際決済は、単一企業のシステムだけでは完結しません。複数の参加者が共通のルールに基づいて、取引情報や資産の状態を確認できる点が、ブロックチェーンや分散型台帳技術を検討する理由の一つと考えられます。
3つ目は、本番利用へ進む事例が現れ始めた一方で、多くの取り組みは依然として限定的な段階にあることです。
技術的に実現できることと、法規制や運用体制を整え、幅広い企業が継続して利用できることの間には違いがあります。将来の計画と、現在確認されている成果を分けて評価することが重要です。
まとめ
2026年のブロックチェーン活用は、暗号資産やNFTにとどまらず、企業間の受発注・決済、貿易金融、証券取引、国際的な銀行間決済へと広がっています。
特に注目したいのは、ブロックチェーンが独立した新サービスとして使われるだけでなく、既存のシステムや制度をつなぐ基盤として検討されている点です。
一方で、今回紹介した事例には、実証実験、本番環境での限定的な取引、正式提供前のサービスが含まれています。成果を確認する際は、それぞれがどの段階にあるのかを把握し、将来の構想と現在の実績を混同しないことが大切です。
企業がブロックチェーンの導入を検討する場合も、最初からブロックチェーンありきで考えるべきではありません。
「複数の企業や組織で共有する必要がある情報は何か」「どの照合や承認に時間がかかっているか」「記録の真正性を誰が確認する必要があるか」を整理した上で、既存技術と比較しながら採用の妥当性を判断する必要があります。

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