ITの急速な発展が進む現代、社会は飛躍的に変革し、利便性は劇的に向上した。スマートフォンさえあれば、買い物やコミュニケーション、音楽やゲームも楽しめるようになった。たった20~30年の間で、私たちの文化や生き方は大きく変わり、さらなるDXでますます未来は加速度的に進化していくだろう。
電通イノベーションイニシアティブ(以下、DII)は、株式会社電通グループのR&D組織であり、グローバルで有望なスタートアップ・テクノロジー企業への投資・事業開発や、国内外の企業や組織と連携・協力しながら研究開発に積極的に取り組んでいる。特に注力しているテクノロジー領域の一つが「NFT」や「SSI(自己主権型のID形成を指す概念)」といった言葉に代表される「Web3.0」と呼ばれる分野で、様々な実証実験を行うなど、より良い社会の実現に資する技術実装のあり方について構想している。
今回は、ブロックチェーンの力で社会変革に挑むDIIのプロデューサー/鈴木 淳一氏に、ブロックチェーンを活用した社会課題解決への取り組みや最新の実証実験などについてインタビューした。
この記事を読めば、ブロックチェーンによって私たちの未来がどう変わっていくのかが垣間見えることでしょう。
株式会社リッカ
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電通イノベーションイニシアティブについてご紹介ください。
DIIは、株式会社電通グループにおいてR&D(研究開発)を主としている組織です。国内外にはさまざまなスタートアップ・テクノロジー企業が存在しますが、こうした先進的な技術を持つ企業と、世の中にある課題とをマッチングすることで、革新的なイノベーションを推進することが私たちDIIのミッションとなっています。
例えば、ビジネスや社会が抱える課題を解決しようとしている企業や団体、教育機関などからDIIにご相談をいただければ、その課題解決に最適な技術を持つ先進的なWeb3.0スタートアップ企業をご紹介し、DIIが持つテクノロジーやノウハウも掛け合わせながら、実証実験や社会実装まで伴走して進めていくことができます。
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鈴木さんの経歴や役割について教えてください。
大学で金融工学を学んだ後、2000年に株式会社電通国際情報サービス(現:株式会社電通総研)に入社しました。2018年に「電通イノベーションイニシアティブ(DII)」が始動することをうけて株式会社電通へ出向し、2020年にDIIが持株会社電通グループへと移行したことで、株式会社電通グループに中途入社しました。キャリアとしては一貫してR&Dを担当する研究職で、CERN(欧州原子核研究機構)ほか国内外の量子物理学者らとの暗号技術についての研究や、シンジケートローンやM&A取引の自動実行システムに用いられる数理モデルを米国企業と共同開発するなど、国際的な枠組みの研究開発を実施してきました。
近年は社会的にも関心の高い「Web3.0」と呼ばれる自己主権型の情報環境をAIやIoTといった先端ITと組み合わせることで環境や人権に関する社会課題の解決をはかる研究開発に従事しています。また、東京大学でのエシカル消費に関する研究や放送大学准教授としての先進ITを用いたまちづくり研究といったアカデミックな活動のほか、公益的活動としてInnovators Under 35 Japanのアドバイザリーボードやブロックチェーン推進協会(BCCC)理事、Japan Contents Blockchain Initiative(JCBI)地理空間連動コンテンツ部会長などを兼務しています。
DIIでは、NFTやWeb3.0に関するさまざまな実証実験や社会実装を進めていらっしゃるそうですね。なぜ、このような取り組みを進めているのでしょうか?
投機目的での暗号資産取引やNFTの売買ではない、真の社会変革を目指したブロックチェーン活用を進めていきたいというのが、私たちDIIの考えです。
ITの進化は加速度的に進んでいくでしょう。しかし、効率を追求し続ければ、いつの間にか誰とも関わりを持たずに生活が成り立ってしまうかもしれない。ドローン配送や自動運転バス、生成AIを活用した超効率的な社会を作ることが、私たちが望む本当に安心できる未来なのでしょうか?古来から人類が大切にしてきた愛や温もり、一人ひとり異なるアイデンティティが尊重されるコミュニティといった精神的な健康や文化的な社会といった概念が、ITの進化を語る際にはどこかに置き去りにされてしまっていないでしょうか?
また、超効率的な社会を実現する巨大IT企業の技術は、私たちが知らない領域で勝手に私たちを操ってしまうかもしれない。こうした懸念も世界中で広まっています。
このような私たちが漠然と感じている不安を払しょくできる可能性があるとすれば、ブロックチェーンの活用、つまり自己主権型で情報の管理・流通が可能となる新しいインターネット技術「Web3.0」を実現することだと思っています。
なぜなら、ブロックチェーンを正しく活用すれば、私たちの主権やプライバシーが守られ、多くの人々が安心して交流を楽しめるようになるからです。誰かにコントロールされることなく、自分の意志で社会に参加し、個々のアイデンティティを尊重しあえる未来が来るかもしれない。そんな可能性を秘めているのがブロックチェーンの活用なのです。
私たちDIIは、国内外のさまざまな企業や団体と提携し、ブロックチェーンを活用することで人々が安心して暮らせる温かみのある未来社会を創造していきたいと考えています。
なるほど。ブロックチェーンを活用したDIIの取り組みは、単に先端IT技術を試験しているだけではないのですね。では、具体的にどのような取り組みを実施されているのでしょうか?
まずは、ブロックチェーン技術を活用することで社会貢献行動を促進するトレーサビリティ基盤の実現について紹介していきます。
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電通グループ、パナソニックHDとWeb3.0技術を活用し社会貢献行動を促進するトレーサビリティ基盤開発プロジェクトを発表
Web3.0技術を活用し社会貢献行動を促進するトレーサビリティ基盤開発は、電通グループとパナソニックホールディングスが共同で進めている実証実験です。この取り組みは、日本の大学生が「支援を必要とする人」と「寄付によって支援したい人」を繋ぐ役割を担い、日本のシニア層を中心とする投資家が大学生たちの社会貢献活動を金銭面や日々の交流を通して支援する基盤を構築します。
現在は、ふるさと納税制度の普及や遺贈寄付の増加などで、社会課題に対して個人が金銭的な支援をしやすくなっています。一方、現状の仕組みでは非営利な社会貢献活動に参画した学生一人ひとりの実績を評価する仕組みは構築できていません。寄付金の多寡をランキング形式で掲載するサイトはありますが、金銭の多寡では評価されないけれども、社会貢献活動に先導役として取り組んだといった大変重要な行動の実績を確実に証明できる仕組みはありません。また、寄付する人たちも、社会貢献活動に取り組む若年世代や他の支援者との繋がりを感じることは難しい状況です。寄付や支援活動は複数の事業者が協力しあい解決に向けて取り組んでいますが、そのような情報は事業者ごとにプラットフォームが分断されてしまっていて、トレースフォワード(追跡)やトレースバック(遡及)を寄付者などの「個人」を切り口に行うことは困難です。
しかし、ブロックチェーン技術を活用すれば、学生の社会貢献活動へのコミットの実績やプロジェクトの達成状況などを明確に記録することができ、その活動をプラットフォーム横断のトークンにより認証できます。また、寄付や支援の流れがブロックチェーンに刻まれることによって、活動に関与する事業者に不正や改ざんの余地を与えず、安全なトレーサビリティを実現できます。このトレーサビリティ基盤を用いれば、日本の大学生と「支援を必要とする人」、「寄付によって支援したい人」の三者は、トークンによって共通の価値観を有する者同士であることが認められ、チャネル上で日々の交流も可能になります。
インドでは男女間の高等教育格差が課題となっていますが、この社会課題を解決したい日本の大学生とインドの女子生徒、日本の寄付者がブロックチェーン上でつながることで、持続可能な支援の輪を広げることができると考えています。ブロックチェーン技術を活用することで、管理コストも最小化でき、不正や改ざんのない透明性の高い寄付や支援の流れを作ることができるからです。
例えば、授業料の支払いにしか利用できないNFTをインドの女子生徒に発行すれば、寄付したお金が第三者に横領される心配がなくなります。生徒の保護者が、生活費や遊興費などの学業以外のことにお金を使ってしまう、といったリスクを解消することも可能になります。
また、安全で確実なトレーサビリティが実現することで、日本の大学生とインドの女子生徒、日本の寄付者とが、心の繋がりやコミュニティを醸成しやすくなります。インドの女子生徒は学籍番号という個人IDを手に入れ、金銭的な支援を継続的に受けることができ、将来のキャリアを自らの意志で設計できるようになります。日本の大学生は社会貢献活動へのコミットメントが就職活動などで評価されやすくなり、同じ課題に向き合う仲間と世代横断で交流できるようになります。寄付者も大学生やインドの女子生徒と繋がりを持てることで、寄付がどのように活用されているのか、そして自分がどのように社会に、若年世代に貢献できているのかを実感しやすくなります。
このような社会課題に対する取り組みは、特定のプラットフォームに依拠しないパブリックなブロックチェーンを用いることに加えて、自律的なプログラムの実行が可能となるスマートコントラクトと呼ばれるトークン認証技術を伴うワークフローシステムを構築することで実現できます。不正や改ざんを低コストかつ高次元で防ぎ、トークン活用によって活動履歴を間違いなく証明できる仕組みは、ここ数年のブロックチェーンの技術革新によるところが大きいと言えます。
寄付や支援の流れがブロックチェーンによって可視化できるようなイメージですね。
ブロックチェーンのトークンで可視化できるものは他にもあります。個人の学びや活動実績をNFTで表現することも可能です。
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「Table Unstable – 落合陽一サマースクール」の卒業証明書をNFTで発行
電通グループとシビラ株式会社、ソニー株式会社は、「Table Unstable – 落合陽一サマースクール」の卒業証明書をNFTで発行し、個人の活動実績に応じて大学入学や留学、就職等で活用できることを目指す実証実験を始めました。
本サマースクールはメディアアーティスト 落合陽一氏による特別プログラムとして、主に小中学生を対象に2022年以後、岡山・広島・山口・岩手・福岡と全国各地で開催されています。
本サマースクールの参加者には、受講終了後に落合陽一氏から卒業証明書がNFTで発行されます。参加者はスマートフォンに認証用のアプリを入れて卒業証明NFTを取得、ICカード型ハードウェアウォレットをリーダー/ライター機能を搭載したスマートフォンにかざすことで、受講実績を証明することができます。
ブロックチェーンを活用することで、個人の活動履歴を証明できる仕組みが確立できれば、セキュリティが担保されたデジタルアイデンティティとして広く活用されることが期待できます。学びの軌跡が可視化できるようになることで、子どもたちはより主体的に日々の活動に取り組めるだけでなく、多角的な要素で子どもの個性を認識できる教育のエコシステム形成が目指せます。
自分の頑張ってきたことがNFTで可視化できれば、子どもたちの自信に繋がり、より明るい希望を持てるようになりそうですね。
ブロックチェーンを活用できる場面は他にもたくさんあります。企業と顧客との繋がりを強化したり、より精度の高いマーケティングを行ったりすることも可能です。企業が一方的に顧客にラベルを貼り、その情報をマーケティング利用するのではなく、お互いにメリットを享受しあいながら、セキュアな環境の中で持続的に関係性を強化していくことができるようになります。
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J-WAVEでのラジオの聴取体験にWeb3.0技術を組み込んだサービス「J-WAVE LISTEN+(リッスン・プラス)」の新しさ
J-WAVE(81.3FM)はDIIの投資先でもあるシビラ株式会社のウォレット技術を用いて、ラジオの聴取体験にWeb3.0技術を組み込んだサービス「J-WAVE LISTEN+(リッスン・プラス)」を開始しました。
「J-WAVE LISTEN+」は、ラジオの新しい楽しみ方を提案する画期的な取り組みです。このプロジェクトは、従来の「聴くだけ」のラジオから一歩進み、リスナーとラジオ局が相互にメリットを得る仕組みを作ることを目指しています。
具体的には、「J-WAVE LISTEN+」にエントリーしたリスナーがradikoアプリやJ-WAVEアプリ、またはJ-WAVEサイトからラジオを聴くと、聴取時間が計測され、マイページ上で自分の聴取時間が確認できるようになります。
聴取10時間ごとにJ-WAVEのオフィシャルキャラクター「ジェイミー」の絵柄が変化し、J-WAVEの楽しみ方が紹介されます。そして、毎月50時間以上J-WAVEの放送を聴いた方には、ロイヤル・リスナーの証明として「デジタルステッカー(NFT)」が無料でプレゼントされます。今後はそのNFT保有者に対し当人の許諾状況に応じて外部の第三者(企業や団体、または個人)から特別なインセンティブの提供がなされるといったことも、パブリックチェーン上に匿名なれど記録が残るWeb3.0ならではの展開として考えられるでしょう。
また、月間50時間以上J-WAVEの番組を聴いた方には、自動抽選でJ-WAVEグッズがプレゼントされたり、デジタルステッカーを集めた方限定でJ-WAVEならではのスペシャル体験も提供していく予定となっています。
リスナーのメリットとしては、NFT(デジタルステッカー)が発行されることで、自身がJ-WAVEのロイヤル・リスナーであるというアイデンティティを証明できます。これにより、J-WAVEからプレゼントがもらえたり、NFTを保有するリスナー同士のコミュニケーションが活性化したりすることで、J-WAVEや他のリスナーとの繋がりが強化できます。また、お気に入りのアーティストの番組を聴取したというデータが蓄積されれば、自身の推し活ぶりを証明できるようにもなります。これにより番組上でアーティスト本人との交流が深まったり、ロイヤル・リスナーとしてファンの間で有名になったり、その結果としてライブ会場などでロイヤル・リスナー専用の特別な動線が用意されたりすることも考えられます。
J-WAVEとしてもロイヤル・リスナーの聴取データの分析ができることでより良い番組作りができたり、Web3.0技術を組み込むことがきっかけで新たなリスナー獲得が期待できたりします。そしてロイヤル・リスナーに対して外部の第三者から特別なインセンティブ提供がなされる場合には、デジタルステッカーの発行主であるJ-WAVEにも、あらたな収益可能性が生じるかもしれません。
ブロックチェーンを活用することで、人々の繋がりが強化され、社会がより良いものに変わっていくきっかけになりそうですね。
DIIでは他にもさまざまな取り組みを行っています。朝日放送テレビなどと共同でドラマコンテンツの二次創作を可能とするクリエイター向けNFT利活用スキーム「ghost Link」の実証実験を行ったり、TOPPANホールディングスなどと共同でWeb3.0ウォレットにフォトリアルアバターをUIとして適用する世界初の実証実験を行ったりしています。
DIIなどの電通グループの最新の取り組みは、電通が運営するウェブ電通報の公式Xアカウントで発信していますので、ぜひチェックしてみてください。
ウェブ電通報公式Xアカウント https://x.com/dentsuho
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最後に読者にメッセージをお願いします。
プラットフォーム事業者にIDとパスワードを発行・管理してもらい、自分のアイデンティティの見立てがマーケティング観点で行われることに同意することで、当該アイデンティティ情報が誰かに利用されるたびにプラットフォーム事業者の収益に貢献する構造となっているWeb2.0の時代から、自分のアイデンティティをどう使うのかを自分で指示できるWeb3.0へ移行する動きがすでに始まっています。従来のIT環境を常識として放置せず、これからの変化に注目していただきたいです。
従来のIT環境はここ20~30年で作られたものです。一方で、愛や温もりがある社会を心地よいと感じる世界観は、数千年も前から普遍的なものとして人類に受け継がれています。つまり、ITが機能面で充足できているものは社会で必要とされる変革のほんのわずかな部分であり、人類が長い歴史の中で大切にしてきたものを実現するにはまだまだ機能が足りていません。そのような前提で現状のソフトウェアやデバイスを捉えていただくと、今後のITの発展がますます楽しみになっていくと思います。
人類が本質的に求めている愛や温もり、安心感、豊かさなどを実現するために、ブロックチェーンをはじめとした先端IT技術を活用しながら、私たちDIIとともに社会変革を推し進めていきましょう。
本日はありがとうございました!
株式会社リッカ
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