EUでは特定の製品への導入が義務づけられた「デジタルプロダクトパスポート(以下、DPP)」。国内ではあまり大々的には報じられず、見慣れない言葉かもしれません。
しかし、幅広いサプライヤーと取引をしている企業や、欧州圏でのビジネスを検討している企業は、DPPが導入される目的や注意すべき課題について正しく理解しておく必要があります。
この記事ではDPPの概要から、導入するうえで欠かせないブロックチェーンとの関係性にいたるまで広く解説していきます。
株式会社リッカ
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デジタルプロダクトパスポート(DPP)とは?
デジタルプロダクトパスポートとは、製品のライフサイクルに沿ったトレーサビリティを確保するために様々な情報が記録されたデジタル証明書のことです。
現在は主に電池や電子機器、IT機器などに付与されており、使用材料や製造企業だけでなく、耐久性やリサイクルの容易性といった情報まで記録しています。消費者はこうした情報をもとに製品の選択をしたり、あるいは企業へのイメージを決定したりしています。
パスポートというネーミングからはイメージがつきにくいかもしれませんが、たとえば食品や化粧品といった人体に直接影響を与えうるものや、衣類などの繊維商品では原材料の表記や環境負荷、生産ルートなどがすでに表記されているものもあります。
さまざまな製品の製造から廃棄に至るまでの証明がデジタル上に記録されることで、「誰でも」「いつでも」「どこからでも」製品情報へアクセスできるようになったものがDPPだと考えていただけると理解しやすいかと思います。
デジタルプロダクトパスポート(DPP)が必要とされる理由
デジタルプロダクトパスポート(DPP)が必要とされるのは、以下のような理由があります。
- 世界的にカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーが求められているから
- 原材料の調達からリサイクルまでのライフサイクルがサステナブルであることを証明する必要があるから
- DPPに対応しなければEU域内の企業が主導するサプライチェーンから除かれてしまう可能性があるから
それぞれについて解説します。
世界的にカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーが求められているから
いま、欧州をはじめとする世界全体の経済活動では、SDGsをはじめとして世界規模で持続可能な社会の実現が問われています。
そんな中、大量消費社会からの脱却を目指す経済システムとしてカーボンニュートラル(製品ライフサイクルにおける排出された温室効果ガスの排出量が植林・森林管理などによる吸収量と同量になるようにし、温室効果ガス排出量を「実質」ゼロにすること)やサーキュラーエコノミー(経済活動の様々な段階で円を描くように循環させ、製品、素材、資源の価値を可能な限り長く保全して廃棄物の発生を最小限にする概念)が重視されています。
DPPが導入されれば、自社製品の製造にどれだけ環境負荷があるのかが一目でわかるため、消費者だけでなくメーカー自身も経営課題におけるサステナビリティ目標を定量的に把握できるようになります。
原材料の調達からリサイクルまでのライフサイクルがサステナブルであることを証明する必要があるから
現代社会のプロダクト開発では複雑化が進んでおり、一つの製品をつくる際に数多くの部品や加工が必要であり、自社だけですべての情報を把握するのは難しくなっています。
カーボンニュートラルなどによって排出量を取引しようとしても、個々のサプライヤーが供給する部品が完成品の温室効果ガス排出量にどれほど寄与しているか不透明です。そのため、調達の段階からサプライチェーン全体のCO2排出量などを見える化する必要があります。
また、私たち消費者は、企業の製品が作られるプロセスや原料などに関してトレースバックすることはできても、その後のリサイクルや最終製品については追跡できていないことが大半です。DPPはそういったライフサイクル全体を可視化するエコシステムとして注目を浴びています。
DPPに対応しなければEU域内の企業が主導するサプライチェーンから除かれてしまう可能性があるから
22年3月に欧州委員会が発表した「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(以下、ESPR)案」では、企業へのDPP導入義務が新たに盛り込まれています。
EU域内で販売される製品には、その源流にさかのぼって、域外でのサプライチェーン全体に対しても責任があるという前提があるため、EU以外の国と地域であってもDPPへの対応が必要になってくると予想されます。
海外から製品を輸出入する日本企業も、DPPの対応策を考えなければ、気づかぬ間にビジネスチャンスを逃す可能性があります。
デジタルプロダクトパスポート(DPP)の課題
様々なメリットがあるDPPですが、その導入にあたってはいくつか注意しなければならない点があります。
次はDPPが抱えている課題について解説していきます。
サプライチェーン全体でのトレーサビリティを確保すること
DPPは前述の通り、循環経済を実現するうえで重要な役割を担っています。その仕組み上、サプライチェーン全体で追跡可能な状態でなければ、DPPが持つ価値も半減してしまいます。
しかし、複数の企業やプロセスにまたがって製品情報を記録するのは手間とコストがかかってしまうため、DPP導入に際して慎重になっている企業があるのもまた事実です。
とくに日本は欧州に比べると、国民や社会全体の環境意識が高いとはいえず、サプライチェーン全体の足並みを揃えるのには時間がかかるかもしれません。
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改ざん不可能な状態での情報の共有や活用を実現すること
大企業では今後、環境への取り組みが活発になるでしょう。たとえばAppleは世界中の250社以上の製造パートナーとともに、2030年までにApple製品の製造を脱炭素化するという取り組みを進めています。
Appleと世界中のサプライヤーが再生可能エネルギーを13.7ギガワットに拡大
しかしながら、エシカルな消費者が増加し、サステナビリティへの対応がビジネスチャンスにつながってくると、どうしても不正や改ざんを行う事業者が出てきてしまいます。
また消費者に対しても、環境活動の実態とはかけはなれているにもかかわらず環境に配慮した企業であるイメージを流布する「グリーンウォッシュ」も欧州では大問題となっています。
このようにDPPは、重要な価値を持つ一方で不正の温床になってしまうリスクを抱えています。
システム構築や運用のコスト負担を軽減すること
これはDPPに限った話ではありませんが、複数の企業にまたがる大規模なシステムを採用するとかなりのコストがかかります。そのため、CSRへの意識が高い企業や、環境意識の高い顧客層を持つ企業でなければ、費用面でのデメリットが大きくなってしまいます。
国内における環境対策への取り組みには、国や市区町村、公益財団法人などが補助金を出しているケースもありますが、執筆時点ではDPP対応に関する補助金はまだありません。
したがって、トレーサビリティや製品パスポートについては自主的な取り組みが求めらます。
DPPにブロックチェーンを活用することで期待できるメリット
DPPを導入するにあたって避けては通れないのがブロックチェーンという技術です。
ここからはDPPにブロックチェーンを活用することで期待できるメリットを紹介していきます。
下記のメリットをしっかりと理解することで、DPPとブロックチェーンの関係性もおのずと見えてくると思います。
分散型管理によるトレーサビリティの実現
ビットコインの取引は世界中に分散されたコンピューターで管理されており、中央管理者や中央サーバーが存在しません。すべてプログラムで自動実行されるため、取引相手が誰であっても信頼を必要とせずに、安全なやりとりが可能になっています。
分散型の管理であればすべての取引を「いつでも」「だれでも」「透明性をもって」「リアルタイムに」行うことができます。そのため、サーバーがシャットダウンしてしまったり、情報の共有がスムーズに行われないなどの従来のデータベース管理の弊害に悩まされたりすることはありません。
また、ブロックチェーンでは公開範囲を設定することもできるため、企業秘密(部外秘)の情報であっても安心して管理できます。
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高い耐改ざん性による信頼性の担保
ブロックチェーンを活用することで、サプライチェーンに参加する企業間の信頼性を担保できます。
ブロックチェーンは、ビットコインを始めとする暗号資産の取引にも使われている技術です。P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されています。
そのため改ざんが非常に困難で、透明性の高い取引ができるため、ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨が世界中で利用されています。
こうしたブロックチェーンの仕組みを活用すれば、サプライチェーンでも信頼性を担保しながら取引をスムーズに行うことができます。
また分散型の管理であるため、どこかで不正が行われたとしても、サプライチェーンに参加する企業はすぐに不正の検知が可能です。
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システム構築や運用に関する費用の低減
ブロックチェーンではネットワークの参加者によって情報が管理されます。したがって、従来の中央集権的なデータベースで発生していたサーバーの使用料・管理費などのコストが抑えられます。
もちろんブロックチェーンでの情報の管理にも手数料は発生しますが、ネットワーク上のマシンでデータを分散管理するため、圧倒的に安価でシステムを運用できます。実際に仮想通貨の世界では、銀行よりも安い手数料で数多くの取引が行われています。
また、新たに発生するコストだけではなく、削減できるコストもあります。DX化されたサプライチェーンは、紙の契約書や手作業の集計、転記ミスなどが激減することで、業務効率が飛躍的に向上し、生産性も高まるでしょう。
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まとめ デジタルプロダクトパスポート(DPP)について
近年では、ブロックチェーンの活用は金融系サービスにとどまらず、電力の地産地消を証明する公共サービス、国外との輸出入を容易に追跡可能にする物流管理サービス、健康データをユーザー自身で管理する医療系サービスなど非金融のサービスにも広がっています。
とくにDPPをはじめとするトレーサビリティの分野では、ブロックチェーンの活用は盛んに行われており、製品の透明性や企業による不正が叫ばれている昨今の状況を鑑みても、新たなシステムの導入が進むことは間違いないでしょう。
そんなDPPを支える技術としても期待されるブロックチェーンですが、企業がブロックチェーンを開発・導入する際にはいくつかの注意点や独特のノウハウがあります。ブロックチェーンを活用したビジネス開発に少しでもご興味があれば、トレードログ株式会社・株式会社リッカにぜひご相談ください。
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