不動産取引の歴史は長く、紙ベースのやりとりも多いため、IT化やDX化が遅れ気味の業界となっています。
現在では、国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営している「レインズ(REINS)」によって、不動産物件の情報化は進みつつあります。しかし、不動産の物件情報は膨大であるため、「レインズ(REINS)」に登録される不動産情報は限られた物件に過ぎません。
IT化が遅れることで、不動産の流動性が低下したり、非効率な業務が常態化したりするリスクがあります。コスト削減が難しく、利用者の満足度も低下してしまうため、不動産業界全体の売上低下が懸念されるだけでなく、日本経済全体が停滞化する可能性も秘めています。
そこで期待されているのが、不動産業界へのAI導入です。AI導入により、膨大な情報の効率的な活用や業務効率の向上、物件マッチングの精度向上などのさまざまなメリットが考えられます。
今回は、不動産×AIをテーマに、不動産業界におけるAI導入のメリットなどを解説します。
この記事を読めば、不動産業界の課題がAIによってどう解決されるのかがイメージできます。
株式会社リッカ
参考情報
不動産業界でAIを導入!大手10社の活用事例やメリット・デメリットを解説
https://propertydbk.com/column/%E3%80%90%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%80%91%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3%E6%A5%AD%E7%95%8C%E3%81%A7ai%E3%82%92%E5%B0%8E%E5%85%A5
不動産業界でAIを活用できる4つの場面|AIを導入することで得られるメリット・デメリット
https://chintaidx.com/media/20220224_01
生成AIが不動産業界に もたらす影響 2023
https://retechjapan.org/wp/wp-content/uploads/2023/12/whitepaper20231213.pdf
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不動産業界が抱えるDX化の課題とは
不動産取引の歴史は古く、紙の書類やFAXでの情報のやりとりが多いため、DX化が遅れ気味の業界となっています。不動産業界が抱える主な課題には、以下の5つがあります。
- 膨大なデータ管理の手間
- 紙の契約書によるDX化の遅れ
- 人件費などのコスト増大
- 顧客満足度の低下
- 不動産の流動性低下
それぞれを解説します。
膨大なデータ管理の手間
1つ目の不動産業界が抱えるDX化の課題は、膨大なデータ管理の手間です。
不動産物件の情報は、物件ごとに住所、築年数、間取り、設備、所有者、修理歴などの情報があります。こうした情報は複数の不動産業者がそれぞれで管理している場合があるため、全国には膨大な不動産データが存在しています。
この情報は書類やFAXでやりとりされることもあるため、情報の更新や削除などのメンテナンスに手間暇がかかっています。物件を検索したり、顧客に紹介したりする度に時間や手間がかかっているため、事務効率を低下させ、非効率な残業や休日出勤が減らせないリスクもあります。
紙の契約書によるIT化の遅れ
2つ目の不動産業界が抱えるDX化の課題は、紙の契約書によるIT化の遅れです。
不動産の契約は紙の契約書を交わすことが一般的です。取引金額が大きいため、実印を使ったり、割印を押したり、仲介業者を挟んだりすることで、売買の信用性を担保しているからです。
しかし、紙の契約書が存在することで、紙の印刷や契約書を綴る作業、原本送付などの作業が効率化できないため、不動産業界はIT化の遅れが目立つ分野です。取引内容によっては、都道府県や市町村、法務局などに届け出が必要な場合もあるため、すべての情報をIT化することが難しい原因にもなっています。
人件費などのコスト増大
3つ目の不動産業界が抱えるDX化の課題は、人件費などのコスト増大です。
不動産業界のDX化が遅れると、事務手続きの手間が削減できず、人件費などのコストが増大します。人を減らしてしまうと事務処理が回せなくなるため、コスト削減や利益率の向上を難しくさせる原因になっています。
不動産業界のコスト増は、一般の利用者や取引先企業が不動産取引の手数料として負担することになります。事務効率を向上して手数料を削減しなければ、不動産取引が停滞することで不動産業界の売上が低下する原因にもなっていきます。
顧客満足度の低下
4つ目の不動産業界が抱えるDX化の課題は、顧客満足度の低下です。
非効率な事務作業によって、物件探しや契約処理に時間がかかると、利用者である顧客の満足度が低下する恐れがあります。また、手数料や管理価格が削減できなければ、顧客が負担する費用が増大し、顧客の不満にもつながります。
顧客満足度が低下すると、不動産を購入したり、物件を借りたりする顧客を減らしてしまうリスクがあります。すでに少子高齢化や人口減少を迎えている日本においては、不動産業界の衰退に拍車をかける可能性もあります。
不動産の流動性低下
5つ目の不動産業界が抱えるDX化の課題は、不動産の流動性低下です。
不動産取引の手続きが非効率で、取引コストも高ければ、不動産取引が活発に行われなくなり、不動産の流動性が低下する可能性があります。不動産の流動性が低下すれば、空き家が増えてしまったり、商談のチャンスを逃してしまったりするリスクも増大します。
必要とする人の元に必要な不動産が流通できなければ、日本全体の活力も失われていきます。日本の活力が失われれば、不動産の流動性がますます低下します。郊外の過疎化や都市中心部の空洞化に拍車がかかり、日本経済全体が負のスパイラルから抜け出せなくなる可能性も考えられます。
不動産業界は、他の業種に比べてDX化が遅れ気味となっています。取引金額が大きく、信用の担保が難しいという側面もありますが、不動産業界のDX化の遅れは、日本経済全体の足かせになる可能性もあるため、DX化による業務効率改善が求められます。
これまでも長年にわたって解決は模索されていましたが、これらの課題を一朝一夕で解決することは難しいのが現状です。インターネットの登場によって賃貸物件を検索したり、家や土地などの不動産物件を探したりすることは可能となっていますが、解決が難しい課題も多いため、DX化の遅れにつながっています。
こうした課題を解決できる可能性を秘めているのが、AI(人工知能)です。AIを活用することで、不動産業界が抱えていた課題が解消され、取引の活性化やコストダウンが実現できる可能性があります。
次に、不動産業界でAが解決する課題について解説していきます。
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不動産業界にAIを導入することで解決が期待される課題
不動産業界にAIを導入することで解決が期待される主な課題は以下の5つです。
- データ管理の効率化
- DX化の推進とコスト削減
- 問い合わせ対応や物件マッチングの自動化
- 顧客満足度と売上の向上
- 不動産の流動性向上
それぞれを解説します。
データ管理の効率化
1つ目のAIが解決する課題は、データ管理の効率化です。
AIは大量の不動産データを効率的に収集し、分析することができます。AIを活用することで、不動産業界のデータ管理プロセスを効率化し、データの入力、整理、分析を迅速に行うことが期待できます。
また、AIはデータから傾向やパターンを抽出し、不動産市場のトレンドや顧客のニーズを把握することも可能となるでしょう。
DX化の推進とコスト削減
2つ目のAIが解決する課題は、DX化の推進とコスト削減です。
AIを活用することで、不動産業界のDX化を推進し、業務プロセスを効率化することができます。例えば、AIを用いた物件情報の登録や検索、契約の処理などの業務が効率化することが期待できます。
また、電話やFAX、書類送付などに費やしていた人件費を節約し、より生産性の高い業務に集中することが可能となります。
問い合わせ対応や物件マッチングの自動化
3つ目のAIが解決する課題は、問い合わせ対応や物件マッチングの自動化です。
AIを活用することで、顧客からの問い合わせ対応や物件マッチングを自動化することが可能です。顧客の問い合わせ内容を理解し、適切な回答を提供するAIチャットボットや自動応答システムを導入することで、顧客対応の効率化と顧客満足度の向上が図れます。また、AIが顧客の要望や物件の閲覧履歴を理解することで、物件マッチングを自動で行うことも可能となります。
顧客の要望や条件に合致する物件を迅速かつ正確に見つけることができれば、物件の成約率向上に寄与することが期待できます。
顧客満足度と売上の向上
4つ目のAIが解決する課題は、顧客満足度と売上の向上です。
AIを活用することで、物件の検索から比較、契約、各種手続きが効率化され、顧客満足度の向上が期待できます。迅速に物件の契約処理が行えれば、より短時間でより多くの物件を制約させることができるので、不動産業界全体の売上向上も期待できるでしょう。
顧客満足度が高まれば、家や土地を買う人や賃貸物件を探す人が増え、不動産業界だけでなく、日本全体の経済活性化も期待できます。
不動産の流動性向上
5つ目のAIが解決する課題は、不動産の流動性向上です。
物件探しや契約がAIによって効率化されれば、不動産の流動性を向上させることができます。AIを活用することで、売りたい人・貸したい人の情報が、よりスムーズに買いたい人・借りたい人に届けることができます。低コストでスピーディな不動産物件の流通が可能になれば、不動産取引が活発に行われるようになることでしょう。
不動産の流動性が向上すれば、不動産投資もより活性化することが期待できます。不動産投資が活性化されれば、海外からも資金の流入が期待できるので、少子高齢化・人口減少が進む日本であっても、経済全体を持続的に成長させることができることでしょう。
次に、不動産×AIの実際の事例をご紹介します。
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不動産×AIの活用事例
不動産×AIの実際の活用事例をご紹介します。
「リハウスAI査定」三井のリハウス
三井不動産リアルティ(三井のリハウス)では、マンションの査定額をオンラインですぐに確認できる「リハウスAI査定」を公開しています。「リハウスAI査定」は、査定したい物件を検索し、階数や部屋番号、氏名、メールアドレスを入力することで、最新の不動産価格を知ることができます。
不動産価格は変動しやすく売薬タイミングが難しい場合も多いですが、「リハウスAI査定」に登録しておけば、推定成約価格がいつでもチェックできます。
売買仲介取扱件数が多い三井のリハウスならではの経験と知見に基づくデータを使うため、精度の高い推定成約価格の算出が可能となっています。
https://www.rehouse.co.jp/sell/aisatei
「AI相性診断」 東急リバブル
東急リバブルでは、いくつかの簡単な質問に答えるだけでユーザーの相性に近い物件を探すことができる「AI相性診断」を公開しています。
住みたい物件の種別(新築マンションや中古一戸建てなど)、住む予定の人数、予算、住まい選びで重視する点、エリア、メールアドレスなどを入力すると、ユーザーとの相性度が高い物件を相性が高い順に提案してもらえます。
追加の質問に答えることで、より希望に近い物件を探すこともできます。現在は売買物件の相性診断のみとなっていますが、今後は賃貸物件を探すことや賃貸相当額で購入可能な売買物件の提案も可能になる予定です。
https://www.livable.co.jp/corp/release/2020/20200326.html
「AI ANSWER Plus(ベータ版)」LIFULL HOME’S
不動産物件の情報サイトHOME’Sを運営するLIFULLでは、一般ユーザー向けの不動産取引相談AIサービス「AI ANSWER Plus(ベータ版)」を公開しています。
住み替えを希望しているユーザーの漠然とした希望を、LIFULL HOME’Sが持つ生成AI技術で適切な検索条件に変換し、不動産情報サイト「ノムコム」に掲載されている物件の中から適切な物件を提案することができます。
また、不動産取引を希望しているユーザーの漠然とした疑問に対して、「ノムコム」内のコンテンツやデータを参照して、ピンポイントの回答を生成し、ユーザーの疑問を解決する機能も実装しています。
不動産仲介業において、自社の不動産情報サイトの利用者に向けた生成AIによる対話型チャットサービスを提供するのは国内初となっています。(2023年11月時点、LIFULL調べ)
生成AIを活用することで、不動産取引に関する疑問や不安を解消し、よりスムーズな不動産取引をサポートすることができます。
不動産×AIの今後について
不動産×AIは、ChatGPTなどの生成AIの発展によって、さらなる効率化や自動化、コストダウンが期待できます。また、取引の透明性や情報の信頼性を向上できるブロックチェーンを活用すれば、売主(貸主)や買主(借主)、仲介する不動産業者も安全かつスピーディな不動産取引が可能となるでしょう。
ブロックチェーンには、契約や支払いを自動化するスマートコントラクトという機能があります。一定の条件を満たすことで契約や支払いを自動実行できれば、わずらわしい契約書作成や押印などの業務を削減し、さらなる不動産取引の迅速化が期待できます。
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不動産取引には、都道府県や市町村、法務局などへの手続きが必要になる場合もありますが、不動産取引のDX化がさらに進めば、スマホひとつですべての手続きを完結できる日がやってくるかもしれません。
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まとめ AIが解決する不動産業界の課題とメリットについて
今回はAIが解決する不動産業界の課題とメリットについて解説しました。
不動産取引には長い歴史があり、取引金額も大きいため、紙を用いた契約が多く残っています。また、物件の情報も散在しているため、データの一元化が難しいという現実があります。
しかし、AIを活用すれば、不動産情報を効率的に管理でき、DX化を推進することができます。利用者の満足度や不動産の流動性が向上すれば、不動産取引を活性化することが期待できます。
また、海外からの不動産投資マネーを呼び込むことができれば、さらなる不動産価値の上昇や持続的な国内経済の発展も期待できるでしょう。
そこにブロックチェーンの活用も加われば、より透明性や信頼性の高い不動産取引が可能となり、不動産業界のDX化が加速していくことでしょう。
今後の不動産×AIの発展とブロックチェーンの活用にも注目していきましょう。
株式会社リッカ
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