国内製薬会社トップの武田薬品工業(以下武田薬品)と倉庫・物流事業を手掛ける三菱倉庫がブロックチェーンを用いた医療品輸送・流通上の温度・位置情報を可視化するプラットフォームであるML Chainを導入しました。ML Chainは、IBMのブロックチェーン技術を活用して、三菱倉庫により開発されました。2022年5月より、一部製品の製造工場から医療品卸倉庫への配送において運用が始まっています。
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ブロックチェーンに期待されていること
今回利用されているML Chainは、IBM社のブロックチェーン技術を採用し、三菱倉庫が開発しました。2022年1月から武田薬品の流通の一部過程で運用がされています。
ブロックチェーンに期待されていることは「サプライチェーン全体での連携」と 「改ざんされていないことの保証」です。ブロックチェーン技術とは、あるデータを1事業者が一つのサーバで管理するのではなく、複数事業者(もしくは不特定多数)でデータを分散管理するものです。
サプライチェーンに関わる製薬会社や物流業者、医薬品卸、医療機関など全ての事業者でデータを分散管理することで、特定の事業者が恣意的なデータの改ざんを行うことを難しくなり、各事業者が流通過程のデータをリアルタイムに共有することが可能になります。ブロックチェーンを活用すれば、GDPガイドラインへの対応状況を確認・保証するトレーサビリティを実現できます。
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医療品トレーサビリティ機運の高まり
偽造品流通事例(ハーボニー事案と当時の対応)
医療品の偽造品が出回れば、多くの人に健康被害が発生したり、製薬会社のブランド毀損に繋がったりもします。
2017年にC型肝炎治療薬の「ハーボニー配合錠」の偽造品が流通過程にて正規品に混入してしまい、薬局を通して一般消費者の手に渡ってしまうといったことがありました。幸い、偽造品が服用されることはなく健康被害に繋がることはありませんでしたが、厚生労働省は有識者による検討会を実施し、流通過程に関わる各関係先それぞれにおいて取り組むべき事項をまとめました。
PIC/S GDPガイドライン
ハーボニー配合錠の偽造品混入事件があった2017年時点では、GMP(Good Manufacturing Practice)という医療品の製造から出荷までの品質管理のための規制はあったものの、出荷後の流通管理の制度的な規制はありませんでした。
そこで流通過程における取引相手の事前評価や偽造品を検知する体制構築のためにも、日本が以前から加盟していたPIC/S(医薬品査察協定・医薬品査察共同スキーム)のGDPガイドラインの日本版が2018年12月に厚生労働省から発出されました。ハーボニー配合錠の偽造品混入事件を機に、医療品流通のトレーサビリティの必要性が大きくなってきた現状があります。
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まとめ
医療品の偽造は健康被害が大きくなるため、供給元である製薬会社には適切な予防・管理が求められています。ブロックチェーンを活用すれば、データが改ざんされていないことを保証でき、各事業者が流通過程のデータをリアルタイムに共有することが可能になります。
医療品業界以外でも、安全性の確保やブランドの毀損を避けるために、流通におけるトレーサビリティの必要性が高まっています。ブロックチェーンを用いたトレーサビリティの実現は、ますますニーズが高まっていくのかもしれません。
(その他参考記事)
データプラットフォームを活用した 医薬品の流通過程における情報可視化の取り組み開始について
「ハーボニー配合錠」偽造品流通事案 と国の偽造医薬品対策について
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