【バッテリーパスポートとは?】ブロックチェーンとの関係性をわかりやすく解説

バッテリーパスポートとは? ブロックチェーンとの関係性をわかりやすく解説

近年、気候変動問題をはじめとする環境問題が世界中で問題になっており、国単位だけでなく企業単位でその対策を行うことも珍しいことではなくなりました。そんな数ある取り組みのなかでも、EUで2026年から導入が義務付けられる予定のバッテリーパスポートは、欧州を中心とする世界中の国や企業から注目を集めている国際規格のひとつです。

EVは温室効果ガスを出さない移動手段であるため、今後の車社会の様相を大きく変容させると予測されます。実際にEUでは、地球温暖化対策の一環として2035年からガソリン車やディーゼル車の新車販売の事実上禁止に踏み切りました。

この流れが全世界的なものへと発展した際には、バッテリーパスポートの重要性も増していくことでしょう。さらにバッテリーパスポートは、ブロックチェーンの活用によって安全性や利便性を向上させることもできます。

今回の記事では、バッテリーパスポートの概要や特徴、ブロックチェーンとの関係性ついて詳しく解説していきます。

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目次

バッテリーパスポートとは?

バッテリーパスポートとは?

バッテリーパスポートとは、EUで2026年から導入が義務付けられているバッテリーに関する国際規格です。

蓄電池が「なにからつくられ」「どこで加工され」「どのように消費された」というサプライチェーン全体や、バッテリー寿命などのライフサイクルの情報を記録して明確にすることで、バッテリー情報の透明性を確保する取り組みです。

欧州では産業用電池だけではなく、電気自動車(EV)に搭載する電池の状態や環境負荷などの情報の証明に用いられており、今後は国内でも耳にする機会が増えていくと思われます。

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バッテリーパスポートが重視される理由

バッテリーパスポートが重視される理由

バッテリーパスポートが重視される理由を解説していきます。

  • 2024年以降、EUでバッテリーが規制されるから
  • 人権・環境のデューデリジェンスが求められるから
  • EVを始めとしたバッテリーの需要が高まると予想されるから

それぞれを解説します。

2024年以降、EUでバッテリーが規制されるから

EUでは、市場に投入される電池の製造・リユース・リサイクルまでのライフサイクル全体を規制していく動きがみられます。2022年の12月には、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会との間で、現行のバッテリー指令を大幅に改正するバッテリー規則案の暫定的な政治合意がなされ、バッテリーパスポートの義務化や、それにリンクしたQRコードの電池本体へのラベル付けの義務化が決まりました。

この合意により2024年以降のEUではバッテリーに関する規制が適用されるため、よりいっそうバッテリーパスポートの需要が高まると予想されます。

EU、バッテリー規則案に政治合意、2024年から順次適用へ(EU) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース

人権・環境のデューデリジェンスが求められるから

バッテリーパスポートは企業の社会的責任面からも重視されつつあります。現在、バッテリーの主要原材料であるコバルトは、その生産シェアの約7割をコンゴ民主共和国が占めています。しかしそんなコバルトを巡っては、コンゴ民主共和国の内戦といった不安定な政情を背景に、児童労働や低賃金問題、賄賂などの問題も存在しています。

EVは地球に優しくても人間に優しくない一面をもつ――コバルト生産の闇(六辻彰二) – 個人 – Yahoo!ニュース

バッテリーパスポートは、特徴のひとつでもあるトレーサビリティによってコバルトの生産および蓄電池の製造過程を可視化できます。これにより非人道的な労働環境に対する人権デューデリジェンスに効果を発揮します。また、アクセス権や公開のルールも自由に定められるため、カーボンフットプリントやリサイクル原料の含有量といった情報をオープンな状態にすることで、電池事業者は原料調達先における環境的インパクトを必然的に考慮しなければなりません。バッテリーパスポートは、こういった企業が全うすべき責任や義務を履行するうえでも重要な役割を果たしています。

EVを始めとしたバッテリーの需要が高まると予想されるから

現代社会におけるバッテリーの需要も、バッテリーパスポートが重要視される理由のひとつです。「カーボンニュートラル」の概念浸透に伴い、市場の自動車もガソリン車から走行時に二酸化炭素を排出しないEVへとスタンダードが切り替わりつつあります。そのような車社会においてバッテリーパスポートが導入されれば、バッテリーはただ電源の役割を担うだけではなく、ライフサイクルに関する膨大なデータをプラットフォーム上に蓄積できるようになります。このアーカイブ情報は様々なビジネスや研究に利活用できるため、バッテリーパスポートの需要は急速に高まると予測されます。

実際に、持続可能なバッテリーバリューチェーンを確立するための組織である「Global Battery Alliance(GBA)」のサポーターには、世界銀行、OECD、ユニセフなどバッテリーとは関係の薄い分野の国際機関も入っています。

https://www.globalbattery.org/about/members/

バッテリーパスポートを導入する際の課題や注意点

バッテリーパスポートを導入する際の課題や注意点

バッテリーパスポートを導入する際には、主に以下のような課題や注意点があります。

  • サプライチェーン全体をDX化し、トレーサビリティを確保する必要がある
  • 各企業の機密情報を守りつつ、重要なデータを共有する必要がある
  • サプライチェーン全体が一丸となって国際競争力を高める必要がある

それぞれを解説します。

サプライチェーン全体をDX化し、トレーサビリティを確保する必要がある

「バッテリーパスポートには、統一されたデジタルプラットフォーム上でバッテリーに関する膨大な情報を記録できるメリットがある」というのは上述の通りですが、その利点を生かすには、製品のトレーサビリティを高めてバッテリーのライフサイクル全体を追跡できる環境を構築しなければなりません。サプライチェーン全体をDX化すると時間的なコストや費用面でのコストも大きくなる傾向にあるため、短期ではなく長期的な視点でバッテリーパスポートの導入を検討する必要があります。

またサプライチェーンのDX化に関しては、既存システムが負担となってうまくデジタル移行できないケースも散見されます。旧来のシステムとのデータ連携に問題があると、新システムの設計や調査がスムーズに進まず、場合によってはそこで計画が頓挫してしまうこともあります。業務効率化やコスト削減などの保守的なIT投資に資金や人材を割いた結果、根本的なDX推進の妨げになっているという実情があります。

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各企業の機密情報を守りつつ、重要なデータを共有する必要がある

バッテリーパスポートには、「製品の起源」「成分」「生産地」「出荷日」などの重要な情報も含まれます。これらの情報をすべて共有してしまうと、各企業の機密情報やノウハウも失われ、セキュリティ上のリスクやビジネス上のリスクが高まってしまいます。こういったリスクが企業の大きな懸念事項になっているのも事実です。バッテリー情報へのアクセスに際して透明性と安全性を両立させるためには、適切なデータセキュリティ対策を講じ、それらを反映させた規則に則ってバッテリーパスポートを運用していかなければなりません。

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サプライチェーン全体が一丸となって国際競争力を高める必要がある

バッテリーパスポートは、国際的な競争力を高めるための重要な要素となります。現在のバッテリーパスポートに関する取り組みはEUを中心に進んでいますが、バッテリーの需要拡大や人権・環境意識の高まりなどによって今後は世界的なトレンドに発展していくと考えられます。したがって、国際的な市場で競争力を高めるためには、ただ単に製品に技術力を集約させるのではなく、サプライチェーンのプレイヤー間でオープンにされた正確な情報を共有したうえで製品の開発を行い、効率的な製品開発やチームや部署を超えたコミュニケーションを実現する必要があります。

また日本の企業はデータ共有に対して消極的な傾向があるため、データ共有の重要性をきちんと理解して積極的・協調的なデータ共有をすることが望まれます。サプライチェーン全体が一丸となって、データの共有や情報の透明性を確保することで、国際市場における競争力を向上させることができると考えられます。

バッテリーパスポートにブロックチェーンが活用される理由

バッテリーパスポートにブロックチェーンが活用される理由

バッテリーパスポートを導入する際の課題や注意点は、ブロックチェーンが解決できる可能性があります。バッテリーパスポートにブロックチェーンが活用される理由は以下の通りです。

  • データの透明性や耐改ざん性を担保できるから
  • 分散型管理によってサプライチェーン全体で情報共有しやすいから
  • 秘密計算やゼロ知識証明を組み合わせることで企業の機密情報を守れるから

それぞれを解説します。

データの透明性や耐改ざん性を担保できるから

ブロックチェーンは「ハッシュ関数」「PoW」「公開鍵暗号方式」といった複数の技術によって、データの改ざんリスクに対して非常に強いという性質をもっています。そのためバッテリーの生産・消費過程において不正を働くことが難しくなり、データの透明性や耐改ざん性を担保することが可能になります。

データベースによる情報管理では、バッテリーパスポートのような大型かつ横断型のシステムにおいて不正な書き換えや改ざんが懸念されます。バッテリーの材料に関しては大企業が権益を確保しているケースも少なくないため、一部の管理者が特権を使って不正を働くことを阻止するうえでもブロックチェーンの技術が役立ちます。

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分散型管理によってサプライチェーン全体で情報共有しやすいから

ブロックチェーンは分散型のシステムであるため、サプライチェーン全体で情報共有を行うのに適しています。注意点のひとつで取り上げたように、日本の企業はデータ共有に対して消極的な傾向があります。これは従来のデータベース管理では必然的に特定の管理者が存在するため、情報共有において平等性を欠いたり、場合によっては上下関係が生まれたりすることが原因だと思われます。

ブロックチェーンによる分散型の管理であれば、データを独占的に管理する存在はおらず、ユーザー1人1人がネットワーク上でお互いに監視し合う体制となっています。そのため不正や改ざんが難しく、信頼性の高いデータ管理を実現できます。

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秘密計算やゼロ知識証明を組み合わせることで企業の機密情報を守れるから

秘密計算は「データを暗号化したまま計算する技術」、ゼロ知識証明は「ある知識を持っていることを、その知識が正しいという情報以外を明らかにすることなく証明する方法」です。これらは、ブロックチェーンの透明性の裏にあるプライバシーの問題をクリアする技術として注目されています。

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イメージで理解できる-ゼロ知識証明|es

データを活用しようとする場合、様々な情報を暗号化して相手に渡し、それを元の状態に復号化して分析を行うため、機密情報の漏えいや不正利用といったリスクがあります。しかし秘密計算やゼロ知識証明といった技術をブロックチェーンと組み合わせることで、これらのリスクを避けることができます。

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バッテリーパスポートに関連するブロックチェーン活用事例

バッテリーパスポートにおけるブロックチェーン活用事例

バッテリーパスポートに関連するブロックチェーン活用事例を紹介していきます。

  • 「モビリティ・オープン・ブロックチェーン・イニシアチブ(MOBI)」
  • ヌヴォトン テクノロジージャパン×トレードログ

それぞれを解説します。

「モビリティ・オープン・ブロックチェーン・イニシアチブ(MOBI)」

「モビリティ・オープン・ブロックチェーン・イニシアチブ(MOBI)」は、アメリカのゼネラル・モーターズ(GM)やAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)、日本のホンダ、デンソーなどが加盟する次世代のモビリティ産業におけるブロックチェーン技術の国際標準化コンソーシアムです。日本企業では他にも、日立製作所や伊藤忠商事、マツダなどが加盟しています。

データの不正な書き換えが困難で改ざんリスクが低いブロックチェーンを活用して、バッテリーに識別番号を付与、この識別番号を辿ることによって、トレーサビリティを実現します。

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/chikudenchi_sustainability/pdf/003_03_00.pdf

バッテリーパスポートは、バッテリーの材料調達から廃棄までのライフサイクルをデジタル上で記録する欧州連合(EU)の共通規格です。サプライチェーン全体でのCO2削減や、電池のリユース・リサイクルといった二次利用を促進するためには、業界全体でのデータの共有が必要になるため、MOBIの共通規格がバッテリーパスポートなどに採用されることを目指しています。

参考:経済産業省「データ連携について2022年7月7日」

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/chikudenchi_sustainability/pdf/003_03_00.pdf

日米欧の車メーカーやIT(情報技術)大手など120超の企業や団体が加盟する国際組織が車載電池の共通規格を策定した。ブロックチェーン(分散型台帳)を使って記録した生産履歴や、生産工程での二酸化炭素(CO2)の排出量などを管理・共有できる仕組みだ。共通規格でデータを活用し、効率的な供給網(サプライチェーン)の構築や、CO2の削減につなげる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC15AF50V10C22A7000000/

ヌヴォトン テクノロジージャパン×トレードログ

https://www.nuvoton.co.jp/

ヌヴォトン テクノロジージャパン株式会社(以下、ヌヴォトン)は、車載・産業分野において半導体事業を中心に、イメージセンサやISPなどの「空間センシングソリューション」、マイコン・高速インターフェースやセキュリティ・エッジAI等の「IOTセキュリティソリューション」、バッテリーマネジメント用ICやリチウムイオン電池保護MOSFETなどの「電池応用ソリューション」といった世の中の暮らしを支えるソリューションを提供している企業です。

またトレードログ株式会社(以下、トレードログ)は、非金融領域におけるブロックチェーンの導入支援を行っている企業です。システムの開発からPMOに至るまで一気通貫で行っており、知識と経験が豊富なプロフェッショナルによって様々な角度からブロックチェーンを複合的に組み合わせてビジネスをサポートしています。

この2社による協業では、バッテリー内部の情報をブロックチェーン上に記録しています。具体的には、ヌヴォトンが持つリチウムイオン電池の内部状態を測定する技術と、トレードログが提供する秘匿型ブロックチェーン技術を活用し、データ基盤を構築しています。このケースでは、電池の残存価値評価を行い、バッテリーの管理や再利用に必要十分なデータを安全かつ透明性の高い形で共有することができるため、モビリティ事業者やバッテリー事業者のデータ管理需要に応えられます。

ヌヴォトン テクノロジージャパン株式会社様とのリチウムイオン電池の残存価値評価の企業間連携データ基盤構築に向けた協業に関して

バッテリーパスポートに対応した仕組みを構築することで、容量・出力不足など電池の経年劣化も明白になります。適正に運用できれば、中古EVの価値引き上げや太陽光発電の蓄電池へのリユースもしやすくなり、サプライチェーン全体でバッテリーの価値を高めることができます。

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まとめ バッテリーパスポートについて

まとめ バッテリーパスポートについて

今回はバッテリーパスポートについて解説しつつ、ブロックチェーンとの関係性や実際の事例についても紹介しました。現在は主に欧州で注目されている取り組みではありますが、すでに国内でもいくつかの企業がバッテリーパスポートに対応した業界横断型のエコシステムを構築しはじめています。近い将来、世界のスタンダードになっていくと予想されるバッテリーパスポートには今後も目が離せません。

そんなバッテリーパスポートを支える技術としても期待されるブロックチェーンですが、企業がブロックチェーンを開発・導入する際にはいくつかの注意点や独特のノウハウがあります。ブロックチェーンやスマートコントラクトを活用したビジネス開発に少しでもご興味があれば、トレードログ株式会社・株式会社リッカにぜひご相談ください。

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