- 『サプライチェーン排出量とは?どうやって算出するの?』
- 『どんなメリットがあり、なぜ管理しなければいけないの?』
サプライチェーン排出量とは、企業活動における原材料の調達や製造、物流、販売、廃棄に至るまでの全体のプロセスの中で排出する温室効果ガスの量のことをいいます。脱炭素が求められるこれからの時代は、自社の直接排出だけでなく、間接的な排出も含めた事業全体の温室効果ガスの量を把握する必要があります。
しかし、巨大なサプライチェーン全体の温室効果ガスをどうやって算出するのでしょうか?それをすることでどんなメリットがあり、そもそもなぜ管理しなければいけないのでしょうか?
今回は、サプライチェーン排出量について解説し、ブロックチェーン活用の事例もご紹介します。
この記事を読めば、サプライチェーン排出量とブロックチェーン活用のイメージが掴めます。
株式会社リッカ
<<あわせて読みたい>>
サプライチェーンにブロックチェーンを活用するメリットや事例を紹介
サプライチェーン排出量とは?
サプライチェーン排出量とは、企業活動における原材料の調達や製造、物流、販売、廃棄に至るまでの全体のプロセスの中で排出する温室効果ガスの量のことです。
脱炭素社会では、自社の直接排出だけでなく、間接的な排出も含めた事業全体の温室効果ガスの量を把握する必要があります。
参考:環境省「排出量算定について-グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html
温室効果ガスは、化石燃料の燃焼(火力発電など)、工業プロセスにおける化学反応(製鉄や石油精製など)、ガソリンやガスの使用や漏えいなど、事業活動によって大気に排出されています。自社内における直接的な排出だけでなく、自社事業に伴う間接的な排出も対象とし、事業活動に関係するあらゆるシーンでの温室効果ガスの排出を合計した値がサプライチェーン排出量となります。
サプライチェーン排出量を管理しなければならない理由
サプライチェーン排出量を管理しなければならない理由は、地球温暖化によって人類の持続的な活動ができなくなる危険性があるからです。
温室効果ガスの排出量は、文明の発達や世界人口の増加に伴って年々増えていて、地球温暖化を招いていると考えられています。このまま温室効果ガスの排出が増加し続けると、海水温の上昇や熱膨張、氷河などの融解によって、2100年までに海面が最大82cm上昇すると予測されています。
参考:JCCCA全国地球温暖化防止活動推進センター「温暖化とは?地球温暖化の原因と予測」
温室効果ガスの増加は、海水温の上昇や熱膨張、氷河などの融解を引き起こします。それによって海面上昇や急激な気候変動が引き起こされ、海や陸の生態系が破壊されたり農作物の不作が続いたりします。温室効果ガスによって食料危機が起きれば、経済活動も低下して人類は持続可能な活動ができなくなります。
そのため、2015年に採択されたパリ協定において、今世紀末までにCO2排出を実質ゼロにして、気温上昇を2℃まで抑えることが全世界の共通目標とされました。
参考:外務省「2020年以降の枠組み:パリ協定」
このパリ協定の目標を達成するためには、世界中の企業の活動における温室効果ガスの削減が重要な課題となっています。温室効果ガスの排出量を正確に把握し、効果的に削減していくためには、企業単体の排出量だけでなくサプライチェーン全体で排出量を削減する必要があります。
サプライチェーン排出量は今後の企業活動において非常に重要であり、持続可能な開発目標(SDGs)においても「気候変動に具体的な対策を」と設定されています。
参考:外務省「JAPAN SDGs Action Platform 」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal13.html
サプライチェーン排出量の算出方法
サプライチェーン排出量を算出するための世界的な規格として、GHGプロトコルが使われています。GHGは「Greenhouse Gas」の略で、日本語では温室効果ガスと訳されます。
参考;環境省「温室効果ガス(GHG)プロトコル」
GHGプロトコルでは、企業活動の上流から下流に至るまでのサプライチェーン全体における温室効果ガスの排出を、以下の3つに区分することによって漏れなく把握できるようになっています。
- Scope1:事業者⾃らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、⼯業プロセス)
- Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使⽤に伴う間接排出
- Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
参考:環境省「サプライチェーン排出量とは?」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_gaiyou_20230301.pdf
ここで特に重要なことは、温室効果ガスの間接的な排出(Scope2)はもちろん、自社の活動に関連する他社の排出(Scope3)も算定対象とされていることです。GHGプロトコルでは、サプライチェーン全体の温室効果ガスを把握し、適切な削減ができるようScope3(Scope1、Scope2以外の間接排出)までも算出対象としています。
サプライチェーン排出量の算定方法としては、基本式として「活動量×排出量原単位」を用います。電気の使用量や貨物の輸送量などのデータ(活動量)に対して、電気1KW/h使用あたりのCO2排出量や貨物輸送量1トンあたりのCO2排出量などの変数(排出原単位)をかけ合わせます。なお、排出原単位はあらかじめ決められたデータベースをもとに算出する方法の他、実際の排出量を直接計測する方法、取引先から排出量の算定結果を受け取る方法もあります。
Scope3のカテゴリ
Scope3は15のカテゴリに分かれています。上流に該当する1~8、下流に該当する9~15に分類されます。業種や業界、企業によって影響の大小や該当の有無がありますので、自社に照らして確認してみると良いでしょう。
カテゴリ名 | 該当する活動 | 収集すべきデータ |
---|---|---|
1.購⼊した製品・サービス | 原材料などの採掘、加⼯など | 原材料調達量、加⼯⽅法 |
2.資本財 | ⼯場などの資本財の製造や資材の採掘、加⼯など | 資本財投資額 |
3.燃料・エネルギー | 関連購⼊燃料・電⼒の採掘、精製など | 燃料、電⼒の使⽤量 |
4.輸送、配送(上流) | 購⼊物品の物流 | 購⼊物品の物流量 |
委託物流 | 委託物流量 | |
5.事業から出る廃棄物 | ⾃社拠点から発⽣する廃棄物の処理 | ⾃社拠点から発⽣した廃棄物量 |
6.出張 | 出張に伴う移動 | 出張旅費⾦額 |
7.雇⽤者の通勤 | 通勤に伴う移動 | 通勤費⽀給額 |
8.リース資産(上流) | リース使⽤している倉庫の運⽤時 | リース資産の稼動時のエネルギー使⽤量 |
9.輸送・配送(下流) | 出荷後、所有権移転後の物流 | 出荷後、所有権移転後の物流 |
10.販売した製品の加⼯ | 販売された中間製品(部品、素材)の出荷先での加⼯ | 中間製品の出荷先での加⼯時のエネルギー使⽤量 |
11.販売した製品の使⽤ | 販売された製品の使⽤ | 製品の使⽤時のエネルギー使⽤量 |
12.販売した製品の廃棄 | 販売された製品の廃棄 | 製品の廃棄⽅法 |
13.リース資産(下流) | リース貸ししている資産の客先運⽤ | リース資産の客先での稼動時のエネルギー使⽤量 |
14.フランチャイズ | フランチャイズ店舗の稼動 | フランチャイズ店舗でのエネルギー消費量 |
15.投資 | 投資先の稼動 | 投資先と出資⽐率 |
その他(オプション) | 従業員や消費者の⽇常⽣活に関する排出等 |
参考:環境省「サプライチェーン排出量とは?」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_gaiyou_20230301.pdf
<<あわせて読みたい>>
【トレーサビリティとは?】わかりやすく簡単に解説!その意味や必要性、メリットについて
サプライチェーン排出量を管理するメリット
サプライチェーン排出量を管理するメリットは以下の通りです。
- エネルギーコストの削減が期待できる
- 持続可能な事業によって脱炭素化に貢献できる
- クリーンで先進的な企業としてイメージアップする
- 消費者や投資家の期待に応えられる
- サプライチェーン全体の環境意識が向上する
それぞれを解説します。
エネルギーコストの削減が期待できる
サプライチェーン排出量を管理するメリットの1つ目は、エネルギーコストの削減が期待できることです。
サプライチェーン排出量を管理することで、エネルギー消費が非効率な部分を特定できます。生産や物流などの効率化で温室効果ガスの削減ができれば、余計なエネルギーコストを削減できる可能性があります。
持続可能な事業によって脱炭素化に貢献できる
サプライチェーン排出量を管理するメリットの2つ目は、持続可能な事業によって脱炭素化に貢献できることです。
サプライチェーン排出量を管理することで温室効果ガスを減らせれば、事業の持続可能性が高まって、世界が目指す脱炭素社会の実現に貢献できます。自社だけでなく、人類にとっても永続的な活動が可能になります。
クリーンで先進的な企業としてイメージアップする
サプライチェーン排出量を管理するメリットの3つ目は、クリーンで先進的な企業としてイメージアップすることです。
サプライチェーン排出量を管理することで、脱炭素社会の実現を見据えたクリーンで先進的な企業であることをアピールできます。温室効果ガスの削減に向けた努力や削減量を公表することで、企業としての透明性や信頼性が高まることが期待できます。
消費者や投資家の期待に応えられる
サプライチェーン排出量を管理するメリットの4つ目は、消費者や投資家の期待に応えられることです。
温室効果ガスの削減や脱炭素社会の実現は、消費者や投資家の関心が高まっています。特にESG投資の重要性は高まっていて、温室効果ガスの排出が多い産業や企業は持続可能性が低いとみなされ、投資資金が引き上げられる可能性があります。
ESG投資とは
ESGは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉です。投資家が企業の株式などに投資するとき、これまでは投資先の価値を測る材料として、主にキャッシュフローや利益率などの定量的な財務情報が使われてきました。それに加え、非財務情報であるESGの要素を考慮する投資が「ESG投資」です。
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/esginvestments/
サプライチェーン排出量を管理し、温室効果ガスの削減に向けた取り組みを公表することで、消費者や投資家などの期待に応えられます。環境意識や長期持続性が高い企業として評価されることで、自社の売上や株価の上昇も期待できます。
サプライチェーン全体の環境意識が向上する
サプライチェーン排出量を管理するメリットの5つ目は、サプライチェーン全体の環境意識が向上することです。
サプライチェーン全体に関わる人々の脱炭素化への関心が高まり、温室効果ガス削減のための積極的な取り組みが期待できます。省エネや高効率化が推進され、産業廃棄物や廃棄ロスを減らすことができます。
サプライチェーン排出量を管理する際の課題
サプライチェーンは複数の企業や消費者から構成されるため、排出量を管理するためには課題も多いのが実情です。サプライチェーン排出量を管理する際の主な課題は以下の3つです。
- 情報共有が難しい
- 不正や改ざんのリスクがある
- 膨大なコストや手間がかかる
それぞれを解説します。
情報共有が難しい
サプライチェーン全体を管理するには、複数の企業や不特定多数の消費者と情報を共有する必要があります。サプライチェーン全体の情報が一気通貫で管理できなければ、排出量を正確に把握することができないからです。しかし、セキュリティの確保やデータフォーマットの違い、一部の参加者のDX化の遅れなどが原因で情報共有が難しい場合があります。
共有するデータの安全性や信頼性の担保はもちろん、機密漏えいにも配慮する必要があります。また、一部で集計の手作業やデータの転記がある場合はミスが起きる可能性があり、その影響はサプライチェーン排出量に大きな影響を及ぼします。
こうした情報共有の課題を解決しない限り、サプライチェーン排出量の管理を効率的に行うことは難しいです。
不正や改ざんのリスクがある
サプライチェーン排出量は、Scope1、2、3の各フェーズから集計されます。そのため、温暖室効果ガスの削減目標に届かない一部の企業が不正な申告を行ったり、都合の良いようにデータを改ざんする可能性があります。
不正や改ざんを防止するためには、データの収集や集計を自動化し、人為的な介在を排除する必要があります。
膨大なコストや手間がかかる
サプライチェーン排出量を管理するためには、全体で情報共有できるシステムを構築する必要があります。しかし、サプライチェーン全体を横断的に管理できるシステムは、開発費や維持費が膨大になる可能性があります。
また、仮にサプライチェーン全体がシステム化されたとしても、排出量を計算するための集計作業や転記作業を削減できなければ、余計なコストや手間が増えることになってしまいます。サプライチェーン排出量を管理するメリットを、コストや手間といったデメリットが上回ってしまえば、温室効果ガスの削減が推進できなくなる可能性もあります。
サプライチェーン排出量をブロックチェーンで管理するメリット
サプライチェーン排出量の管理における課題は、ブロックチェーンによる解決が期待できます。サプライチェーン排出量をブロックチェーンで管理するメリットは主に以下の3つです。
- 改ざん不可能な形で情報が共有できる
- オープンで公正な情報管理ができる
- コストや手間が削減できる
それぞれを解説します。
改ざん不可能な形で情報が共有できる
ブロックチェーンによって、改ざん不可能な形で情報が共有できます。ブロックチェーンは、分散型台帳や暗号化、ハッシュ値などの技術を組み合わせ、データを改ざんすることが事実上不可能とされています。
ブロックチェーンを活用すれば、複数の企業や不特定多数の消費者が参加するサプライチェーンであっても、温室効果ガスに関するデータを安全に共有できます。
<<あわせて読みたい>>
ブロックチェーンとは?分散型台帳の基礎や仕組み、セキュリティ、活用法を図解でわかりやすく解説!
オープンで公正な情報管理ができる
ブロックチェーンのデータは、関係者間で共有して保持されるため不正にデータを書き換えることはできません。仮にデータを書き換えたとしても、関係者の承認が必要になるため、不正が発覚して却下されることになります。
ブロックチェーンによってオープンで公正な情報管理ができるため、データの信頼性が高まります。信頼性の高いデータをもとにサプライチェーン排出量を管理できれば、効果的な温室効果ガスの削減が可能になります。
<<あわせて読みたい>>
【ブロックチェーンの仕組みとは?】特徴や基礎をわかりやすく解説
コストや手間が削減できる
ブロックチェーンによって信頼性の高いデータが安全に共有できることにより、セキュリティコストやデータ収集などの作業が削減できます。ブロックチェーンのデータは関係者間で分散して保持されるため、中央サーバーの構築や維持に関わる費用が節約できます。また、中央サーバーが不要になることで、セキュリティコストも削減できます。
ブロックチェーンによって安全に情報が共有できるため、サプライチェーン全体のDX化が推進されます。紙資料での管理やデータ転記などの事務作業が不要になり、手間や人件費、業務時間の削減が期待できます。
<<あわせて読みたい>>
【ブロックチェーンの7つのメリット】デメリットもわかりやすく解説
再エネ電力の利用をブロックチェーンで管理する事例
サプライチェーン排出量において温室効果ガスを削減するには、化石燃料を使わないクリーンな電力に切り替えることが重要な対策のひとつとなります。例えば、太陽光や風力などを利用した再生可能エネルギー由来の電力(再エネ電力)は、温室効果ガスを排出しないため脱炭素化の推進には非常に有効です。
しかし、従来は一般の電力と再エネ電力を消費者が選択的に利用する仕組みが普及していなかったため、再エネ電力の利用を正確に記録することが難しいという課題がありました。
そこで出光興産株式会社では、再エネ電力を選択的に利用できる『IDEPASS(イデパス)』を開発しました。『IDEPASS』では、建物内のフロアごとや部屋ごとに再エネ電力の使用を利用者が選択できるようになります。また、EVへの充電においても、再エネ電力を選択できるようになります。再エネ電力を使用したデータは、改ざん不能な形でブロックチェーンに記録されますので、正しい情報を安全に共有することができます。
出光興産株式会社:テナント単位でも!EVでも!使用電力は自分で「選べる」時代へ 再エネ電力分別供給システム「IDEPASS™」とEV充電システム「再エネチョイス™」を開発しました
https://www.idemitsu.com/jp/news/2022/230329.html
『IDEPASS』は、鹿児島県の種子島空港や南種子町役場への電力供給やEV充電器に使われています。電力の地産地消を進めるとともに、脱炭素化の実現に向けた取り組みとして注目が集まっています。
この『IDEPASS』の開発には、トレードログ株式会社のブロックチェーン技術が活用されています。ブロックチェーンは、ビットコインのような暗号資産の発行や管理だけでなく、データの安全な運用や業務における長年のボトルネックを解消する技術として活用の場が拡がっています。
ブロックチェーンを活用したDX化を検討されている企業様は、ぜひトレードログ株式会社、株式会社リッカにご相談ください。豊富なブロックチェーン開発の経験とさまざまな業界へのシステムソリューションの実績によって、貴社に最適なご提案をさせていただきます。
株式会社リッカ
<<あわせて読みたい>>
トレードログがザ・ギンザへIoT連携ブロックチェーンツール「YUBIKIRI」の本番提供を開始
まとめ サプライチェーン排出量について
今回は、サプライチェーン排出量の管理やメリットについて解説しました。
脱炭素化社会の実現に向けて、大企業のみならず、そのサプライチェーンに参加するさまざまな企業においても、温室効果ガスの削減やその情報開示が求められるようになっていきます。
地球温暖化は差し迫った課題であり、世界共通の目標として2050年までに実質的な排出量をゼロにすることが決まっています。そのため、消費者や投資家の脱炭素化への関心が高まっており、Scope1、2(自社)のみならず、Scope3(原材料の調達から製品の使用や廃棄)までを含めたサプライチェーン全体の排出量の管理と削減がさらに厳しく求められるようになっていくことでしょう。
複数の企業や不特定多数の消費者が参加するサプライチェーンでは、安全な情報共有や信頼性の担保が課題になります。しかし、ブロックチェーンを活用すれば不正や改ざんを防止した上で効率的なDX化が期待できます。
ブロックチェーン開発のご要望がございましたら、トレードログ株式会社、リッカ株式会社までご相談ください。貴社のDX化に最適なご提案をさせていただきます。
株式会社リッカ
<<あわせて読みたい>>
コメント