【原子力事例】安全な原子力社会へブロックチェーンを活用
概要
原子力産業で事業を展開する老舗のエンジニアリング会社であるNuclearis(アルゼンチン)は、原子力発電所のサプライチェーンに関連する文書を追跡するためのRSKを活用したオンチェーンソリューション(ブロックチェーン上で完結する取引)を発表した。
このソリューションは、ビットコインネットワークをサイドチェーンにより、強化されたRSKブロックチェーンとそのインフラストラクチャフレームワーク(RIF)を提供するIOVラボの支援を経て開発されました。
RSKブロックチェーンとは、ビットコインのネットワークを使ったオープンソース型のスマートコントラクトプラットフォームです。2018年1月にローンチして以来、その技術の高さおよび、ビットコインネットワークのセキュリティを活用できるという利点があり、Ethereumと並んで世界中で注目されているスマートコントラクトプラットフォームです。
原子力発電においてブロックチェーンの開発が進んでいる理由
原子力業界の世界的情勢として、ピーク時と比較すると新規着工基数は低水準の開発トレンドです(図1)。
図1 世界の原子力発電所 着工基数推移(1954~2019年)
出典:IAEA PRISに基づき作成
また、福島事故やその他の原発事故などを起点とし、原子力の存在意義を議論されることなどもありました。
しかし原子力には下記の様なメリットもあり、原子力発電は今後のデジタル社会には欠かせない技術であることが挙げられます。
①少量の燃料で大きなエネルギーが取り出せる
②燃料資源(ウラン燃料)の調達が安定している
③燃料の備蓄性が高い
④温室効果ガス(地球温暖化の原因)を発電時に排出しない
しかし、事故を起点とした議論により、安全への投資コストも上がっていた背景もありました。
東京大学大学院の原子力国際専攻 笠原教授も、原子力発電の拡大について、
電力を大量に得るメリットとそのために払うリスクとのバランスを、ユーザーである国民が自らの問題として考えられることが大事だと思います。日本では安心に対する要求が強く新技術導入に慎重ですが、高速増殖炉の実用炉が稼動することは将来の電力の安定供給には必須でしょう。
引用:東京大学工学部広報誌より引用
と述べ、原子力を悪とするのではなく、社会の必要性とリスクを議論し、安全な活用に向けた対策の元で原子力と共存することの必要性を説いています。
現代のデジタル社会において、電力は生活に欠かせないものになり、
IoT化、AI化などのデジタル化の進化とともに消費する電力はうなぎのぼりで増加していきます。
うなぎのぼりで上昇する消費電力の賄う一つの手段として、原子力があります。事故が取り上げられる度に、原子力の危険性に注目が集まり、原子力にネガティブな印象を持ちますが、現代の技術を支えている電力を安定供給できることも事実です。
そんな中ブロックチェーンを導入し、安全を補助し、不正を予防する試みがなされたのが今回の事例です。
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ブロックチェーンの活用先
ブロックチェーンの活用先として挙げられるのは、設計~建設まで要求仕様通りかを検証する可用性の向上を目的とした活用法です。さらなる将来の活用として、部品の廃棄などのケースでの活用も期待されています。
原子力発電所の建設、建設後の維持については、求められる安全性は非常に高いです。そのため、設計部品1つ1つなどについても同様の安全性が求められます。国際機関の規定により、サプライヤーは生産に関するプロセスのすべてのトレーサビリティを保証する必要がありました。よって、管理業務として、書面(ハードコピー)での記録を残すことが必要でした。今回のRSKブロックチェーンの導入により、納入後にデータ(較正、材料証明書など)を偽造されなくなります。また、紛失や修正も不可能なため不正・不祥事といったリスクも低減できます。その結果、原子力発電所のオペレーターなど関係各所が、すべての文書の真正性を確認できるため、安全に対する高い可用性をもった仕組みを取り入れることが可能です。
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過去の失敗事例から学び、これからの失敗を未然に防ぐことも可能
RSKブロックチェーンの導入により、文書に関連するハッシュ化されたデータが作成され、ブロックチェーンにアップロードされます。Nuclearisは発送から到着までの間に変更・改ざんがないことを確認・検証することができます。
フランスの原子炉機器メーカーであるFramatome(フランス)は7月18日、傘下のClouzot Folgeの製造記録不正問題がありましたが、こういった不正を防ぐ手段としてもこのRSKブロックチェーンは機能するあため、業界に大きな影響を与える可能性を秘めています。
原子力産業の未来予想図
ブロックチェーンを用いることで可用性のある設計、建設、運用までをマネジメントすることが実現できることが予想されます。ブロックチェーンで安全性を担保し、より安全な原子力と共存できる社会を目指すことができます。安全な原子力社会を実現できれば、エネルギーの効率的とともに、エネルギーの安定供給も可能となります。
原子力を安全に運用できる体制を実現することは、原子力産業が今後の5G・IoT、AI時代を支える私たちの基盤産業となることが期待されます。
この事例における拡張性
今回のブロックチェーン活用した製造書類の真正性を証明する仕組みは、原子力産業だけの恩恵ではありません。その他の業種でも横展開が可能だとされ、他の高度なセキュリティ分野においても今後は導入の検討が進むことでしょう。特にコモディティ化した製造製品において、安心安全は付加価値として提供できるため、ブランディング向上にも寄与する活用方法と言えるでしょう。
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